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 oddⅤ -呪われし花嫁と天空城の秘宝-

oddⅤ -呪われし花嫁と天空城の秘宝-

最新の更新分が先頭に表示されます。 最終更新16年1月24日

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第二章 17

 そう言ってリナが取り出したのは、一枚の地図だった。しかしその地図は陸上よりも海上のほうが目立つように描かれている。
「これは……海図?」
 こくり、と頷くリナ。
 ここまで来て言葉の意味が解らないアルスでも無かった。
 だから彼は人一番驚いた。……もしかしたら表情に出していないだけで、実際にはアルス以上に驚いているのかもしれないが。
 リナの話は続く。
「これは海図です。……まあ、説明しなくともあなた達にはこの意味がお分かり頂けるでしょう。もともとパーヘルト家は海に生きる者……今で言うところの海賊に近い存在なのです。まあ、それも私の祖父の代で廃れてしまいましたがね。その時に得た金とノウハウとコネクションを使って今の仕事を始めたのが私の父でした。父は祖父の仕事を潰したわけになりますが、それはパーヘルト家を思ってのこと。祖父も、祖父以外の人間もそれに否定的な意見を下すことはありませんでした」
「パーヘルト家が元々海賊だったことは解った。だがしかし、今ここで海図を見せることと何の関係があるというのだ?」
 カスケルは彼女に問いかける。至極尤もな質問だった。
「たしかに、これだけでは私の言葉の意味が解らないかもしれません。ですから、実物を差し上げて説明いたしましょう。それならきっと、分かっていただけるでしょうから」
 彼女が持っていたそれは、小さな鍵だった。
「その鍵は……?」
「この鍵は、グランベルという港町にあるドックの鍵です。そのドックにはある一隻の船が入っています。その船は再び大海原へ旅立つ時を待っています。その名前はセイレーン号。セイレーン号はかつて我々が使っていたものですが、そういう事情があって使われることは無くなりました。しかしながらいつ使うかは解らないので……、動かす時に備えて整備し続けてきました。そして漸く……セイレーン号はまた船長を得る時がやってきたのです」
「セイレーン号が、船長を得る……? 言っている言葉の意味が解らないのだが」
「単刀直入に言いましょう。魔王に関することは、昔から我々も知っていました。魔王に関する知識は、我々パーヘルト家が所持する蔵書に書かれています。とはいえ、その蔵書にも断片的な知識しか書かれていませんが。『魔王は神によって世界の中心に封印された』……たったそれだけの文言ですが、説得力があるとは思いませんか? かつてのパーヘルト家はこれを虚言としてまともに取り扱うことはしませんでしたが、あなた達からその話を聞いて確信しました。この文言は真実を語ったものなのだと……」
 魔王は神によって封印された。簡潔にまとめられた事実であるが、それが昨日の魔獣から聞いた事実と一致する。
 アルスは鍵を受け取った。その鍵を握り、そして見つめる。
「この鍵を……ええと、グランベルという港町に行けばいいんですか?」
 こくり、と頷くリナ。それを見てカスケルは小さく溜息を吐く。
「それにしてもリナさん、こんなにすごいお礼を受け取っていいのか? その鍵を俺たちに渡すということは即ち船を俺たちに譲る、ってことだよな?」

第二章 16

 正直彼はこの家の食事に期待していなかった。たとえ豪商とはいえ、これほどの田舎ならば食べられるものも限られていると思ったからである。
 だからこそ彼はそれに改めて舌鼓を打つことができた。それは特段彼にとって一番危惧していたことであるとともに、それさえ良ければあとは他にどうでもいい、というくらい極端な彼の性格を一番示していることだといえる。
 彼がパーヘルト家の朝食に舌鼓を打っていると、漸くマリーとカスケルも食堂に姿を見せた。
「おはよう、遅かったな。もう朝食をいただいているよ」
「… …早すぎだろ、アルス。……ってことは起きてすぐ飯を食っているのか? お前らしいというか何というか……」
「馬鹿にしているなら文句は受け付けないぞ、カスケル」
 カスケルはアルスの言葉を聞いて首を横に振った。
「別に。君に不満を抱いているわけでもないし。そんなことをする意味がどこにあるって言うんだい? 仲間との信頼を築けないならこの先長くなるだろう旅を乗り越えられるわけがない。というか、絶対に乗り越えられないだろうね」
「解っているなら自分からその信頼を破壊しかねない発言をするなよ、カスケル。まあ、別に構わないが。それがお前らしいと言えばお前らしい」
「そういう評価をしていただいて光栄だね」
 そう言いながらカスケルはアルスの正面、即ちリナのコピー(というのは少々、というかかなり失礼なことだが)の左隣に座った。そしてマリーはアルスの右隣に腰掛ける。座る際、「ここ、空いているの?」と問い質されたアルスだったが、そもそもそれほど詳しいわけでもないし、そもそもの話この屋敷のことを聞きたければここの主人であるリナに聞けばいい話だった。
 しかしながら彼女は、マリーはアルスに問いかけた。それは彼女が人間不信だとか人見知りだとかそういう類の問題ではないだろう。そんな問題のことではないということは、アルスやカスケルが一番知っていた。
「三人揃ったようですし、少し私のほうから話をしても構わないかしら?」
 その問いにアルスたちは頷く。
 リナはそれを見て目を瞑ると、小さく頭を下げた。
「先ずは昨日のこと、改めてお礼を言わせてちょうだい。ありがとう、あなた達のおかげでリスカンク村は再度平穏を取り戻したと言っても過言ではないわ。この村を代表してお礼を言わせて」
「い、いや。俺たちは特に何もしていないよ。なあ、マリー、カスケル?」
「なんで俺とマリーに話を振るんだ……? ま、まあ……アルスの言う通りだな。俺たちは別に何もしていない。確かに祠には魔獣が住み着いていたがそれほど強い魔獣でも無かったしな。だから気にすることはない」
「そうは参りません。あなた達はこの村を間接的とはいえ救ったのですから。何か一つでもお礼をしなくてはならない。私はずっと考えていました……。そして、やっと一つの結論を導きました。それが、これです」

第二章 15

「復活させないようにすればいいのですよ。聞けばあなたたちは魔王の復活に必要なピースを、魔獣に奪われないようにしてくれたのでしょう? 魔獣があの祠にいた理由もそういうことだったと聞きますし。となると、今回のような作戦をずっと続けていけば、魔獣が魔王を復活させることが出来なくなる。そういう結論に至るのは容易だと思いませんか?」
「それはそうかもしれませんが……」
 それは他力本願といえることだった。他人の力だけで物事を終わらせようとする。自分は絶対に力を貸そうとしない。そういう考えはマリーが嫌いだった。
 リナは溜息を一つ吐く。
「まあ、ともかくご苦労だった。今回の報酬については明日払うことにするよ。今日はもう遅い。ここで泊まってみてはどうだい。もし豪華過ぎることが嫌ならば、宿屋でも構わないが。その場合は宿代を負担しようじゃないか」
 三人はリナの言葉を聞いて、見つめあった。
 三人の意見は、聞くまでもなく一つに決まっていた。

 ◇◇◇

 次の日の朝。
 食堂へ向かうとリナともう一人の女性が食事をしていた。
 彼女の左斜め前に座る女性は、彼女の身体をそのまま小さくしたような感じになっていて、まるでコピーか何かだ。
 彼女はアルスの視線に気づいたのか、小さく頭を下げた。
「あら、アルスさん……。おはようございます。よく眠れましたか?」
「ええ、おかげさまで」
 アルスは返答し、あたりを見渡す。まだ二人は食堂に来ていないようで、どこに座るべきか悩んでいるようだった。
「お好きなところに座ってください。生憎、このテーブルがすべて埋まるほどの人数はこの屋敷にはいませんので」
「そうですか? ……そうでしたら、お言葉に甘えて」
 そう言ってアルスは少女の向かいに腰掛けた。
 テーブルの上には野菜や肉といったいろいろな料理が並べられている。しかし、その料理もテーブルの半分までにしか置かれておらず、残りの半分には何もない。先ほどリナが言った通り、この家にそれほど多くの人間がいないことを意味しているのだろう。
「さあ、どうぞ召し上がってください。……とはいっても、私が作ったものでは当然ありませんが」
「お言葉に甘えて、いただきます」
 アルスは目の前にあった小皿を右手にとり、サラダをその皿に盛りつけた。
 そしてパンの入った皿から一切れパンを取り出し、同じくバターを一欠片切り分けた。
 両手を合わせ、目を瞑り一言告げる。
「いただきます」
 そして目を開けて、バターをパンに塗り、それを口の中に放り込んだ。すぐに口の中にサクサクといった食感が広がる。香ばしい香りも付随してやってくる。さらに噛んでいくうちに小麦本来の甘さが口の中に広がっていく。
 正直彼はこの家の食事に期待していなかった。たとえ豪商とはいえ、これほどの田舎ならば食べられるものも限られていると思ったからである。

第二章 14




「魔獣を倒してくれて、ほんとうにありがとう。私たちも感謝している。パーヘルト家を代表して感謝の意を表しよう。ありがとう」
 屋敷に戻り、アルスたちは状況を報告した。するとリナは立ち上がって、深々とアルスたちに頭を下げたのだった。
 それに一番驚いたのは使用人と思われる老齢の男性だった。
「ご主人様、確かに彼らは仕事を果たしましたがそこまでする必要は……」
「黙れ、お前も知らないとは言わせないぞ。あの祠が我がパーヘルト家にとってどれほどの価値がある祠かということを」
 使用人の老齢な男性に冷たい視線を送って、彼女はそう侮蔑にも近い言葉を投げた。使用人はそんなことを言われるなど思っていなかったのか目を丸くして呆気にとられていたが、すぐに謝罪の意思を示し、頭を下げた。
「大変申し訳ありません。私の失言でした。確かに、あの祠はご主人様の家にとって大変重要なものであることは私も知っていましたことですのに」
「解ればいい。その価値を解っているのならば、私が彼らに頭を下げて感謝の意を表した理由も十分理解できるだろう?」
「ええ、そうですね」
 頭を下げて、使用人は部屋を後にした。
「すまなかったね、見苦しいところを見せてしまって。別にそういうことを見せたかったわけではなかったのだが」
「いや、きっと主君を大切にしているのだろう。それくらい解るよ」
「ありがとう。褒めていただいて、光栄だよ」
「……それで、石像の話に入ってもいいですか?」
 話を切り出したのはマリーだった。
マリーの言葉に頷くリナは笑みを浮かべて訊ねる。
「どうかしましたか?」
「実は……」
 そう切り出して、マリーは先ほどの祠であった出来事について説明をした。
「成る程、魔王、ですか……」
 リナは話を聞いて、その言葉を反芻する。
 魔王という単語が彼女にとってそれほど予想外の言葉だったということだ。
 そもそもこの世界はずっと平和な世界だった。その世界の平和が崩れつつあり、しかも魔獣のリーダーたる魔王が復活しようとしている。それが気に入らなかったということだ。
「魔王……もし仮にそのようなものが目覚めたとして、魔獣が力を結集させて人間と戦うようなことになれば、人間は太刀打ちできないかもしれませんね。できる人間がいても、それはきっと一握りになるでしょうから」
「魔王については、まだきっと魔獣に立ち向かう力を持った人間が少ない以上、太刀打ちできないかもしれません。だってこの世界はずっと平和だったのですから。特に大きな災害や戦争もなくやってきたこの世界。しかしながら、今その世界は魔獣によって平和の均衡が崩れようとしています。……これは、どうしようもないのかもしれません」
「まだ諦めるには時間が早いかもしれませんよ、旅人さん」
 リナはまだ諦めてなどいなかった。
 こんな話を聞いていながらなお、彼女の眼はまっすぐ前を向いていた。
「でも、魔王の戦力は未知数ですよ? もし復活したとしたら……」

第二章 13

「……助かった。度々すまなかったね、マリー」
「いいんだよ、別に。私は特に気にしていない。とりあえず、ここまで来たついでだから、少し祠の中を見てみないか?」
 アルスの言葉に、少し考えたマリー。
 しかし少しだけ考えたその結果、彼女は大きくうなずいた。

 ◇◇◇

 祠の中は、小さな石像が一体設置されていた。
 祠の中は苔が生えていたり木の根が至る所に絡まっていたり、お世辞にも大事にされているとは言えなかった。
 しかし、その石像だけが綺麗な姿を保っていた。
「まるでこれだけ、聖なる力を持っているような……」
 しいて言うならば、教会に置かれているシスター像。
 教会のシスター像は世界のどこかに聳えるという聖なる山、クリムト山の岩石を使用しているといわれている。そもそも教会にとって聖地と言われているクリムトにこんこんと湧き出ている水が彼らにとっての『聖水』であり、その水が染み渡る岩は聖なる力が宿っているといわれている。
「ここってもともと教会があったのかな? それとも、これ自体が聖地から作られたモノ?」
「教会、と言っても聖霊教会の教会か。でもあるとしたら聖霊教会のモチーフがあるだろうし、たぶんここは教会じゃない。リナさんが言っていた通り、ほんとうにただの祠なんだと思う」
「確かに、そういわれてみるとこの石像はシスター像じゃない。どう見てもモチーフが男だしな」
 カスケルの言葉に、マリーは頷く。
「祠も見たことだし戻るとするか。見た感じ情報も特に見られないし……」
 そしてアルスは踵を返し、祠を後にする。カスケルもそれに倣って出た。
 最後にマリーが外にでようとしたとき、ふと石像の目がきらりと光ったのに気付いた。
「……今、目が光った?」
 振り向いて石像を見たが、石像は何も言うことなどなかった。
 石像には金色のブレスレットがかけられていた。ブレスレットには金のプレートが一枚つけられており、そこには三角と四角形を重ねたような図形が描かれていた。何かの家紋だろうか、と彼女は冷静に分析しようと試みたが、
「マリー、どうかしたか?」
「いや、何でもない」
 踵を返し、マリーはアルスたちのほうへと向かった。
 石像のことは、彼女の頭の片隅に仕舞っておくことにした。

第二章 12

 魔獣の話は理解できないものではないが、些か信じがたいものでもあった。実際問題、魔獣を束ねる存在など歴史上で発見されたこともないのだから。ただ魔獣が封印されていた、ただそれだけのことだった。
「我々魔獣を束ねる存在は、まだ封印から解き放たれるその時を待っている。そして我々はその望みをかなえなければならない! 我々の王、魔王レヴォムーンの復活を!」
「魔王……レヴォムーン、ですって……?」
 その言葉を聞いて、マリーは思わず足が震えていた。
「そうです。魔王レヴォムーン。それは我々を束ねるために生まれた、魔力の源たる存在! レヴォムーン様が居なければ人間が魔力を使えることもなかった、この世界に魔力が満たされることもなかったのですよ!!」
「それほどの存在が封印されており、そして、それを解き放つために活動しているということか?」
「まあ、あなたたち愚民には無理な話ですが。魔王が復活すれば、我々の世界が再生され、人間の世界は我々の世界に飲み込まれていく。そうして世界は終わり、世界が始まる」
「だったら――」
 カスケルは、フードを被った魔獣の体を、剣で貫いた。
 同時に、フードの魔獣から緑色の血と思われる液体が零れ落ちる。
「私を殺しても、魔王の復活は止められないぞ!! 神殿の封印が解き放たれ、あの大陸はもはや魔獣の領地と化した。あとは、魔王を封印した場所から魔王が解き放たれるのを待つのみ! 私を倒しても、それが終わることはない。ずっと昔から、ずっと前から、その路線は決まっていたのだから!!」
 そして、フードの魔獣はそのまま息絶えた。
「……あっさりと、死んでしまったな」
 アルスはそう言って、その場に倒れた。
「アルス! 大丈夫か!?」
 カスケルとマリーはアルスのそばに近づく。アルスは息も絶え絶えで、顔には汗も滲んでいた。
「どうした、アルス! ……まさかさっきの攻撃が?」
「どうやら、毒が回ってきたみたいだ……。あの攻撃、まさかの毒入りとは思わなかったよ。ただの攻撃かと思って油断していた。マリー、解毒魔法って使えるか?」
 アルスの言葉にうなずくマリー。
 そしてマリーはアルスの背中に、手を添えた。
 刹那、彼女の手のひらから淡い緑色の光が溢れ出す。そして見る見るうちに彼の顔色は良くなっていった。
「ありがとう、マリー。助かったよ」
「駄目よ、まだ動いちゃ。あとは回復魔法をしないと」
 次いで、マリーはアルスの背中に手を当てたまま、目を瞑る。
 そして淡い水色の光が溢れ出し、彼の背中にあった傷が癒えていく。

第二章 11

 アルスの身体に、何かが引き裂いたような痛みが走った。
「な……なんだ⁉︎」
 彼はすぐさま振り返る。全身に走る痛みよりも、それをした相手の確認のほうが優先だった。いったい誰がやったのかーーまあ、ほとんど解りきったことではあったが、そうであったとしても確認せねばならない。自分の目で確かめなければ、何もはっきりと見えてこない。
 そしてそこに立っていたのは、彼の予想通りの人物だった。
 フードを被ったあの魔獣が、自らの腕を剣に変えて彼の背中を傷つけていた。彼の背中からはやはり予想通り血が流れていた。ぽたぽた、と雫が零れ落ちていた。
「貴様あああああ!」
 アルスの異変に気付いたカスケルは、すぐさま魔獣に斬りかかった。
 しかし魔獣はすんでのところでそれを避けると、一歩後退する。
「まずは一人、手負いを一人でも増やせばまだチャンスはあるさ。この世界を真たるものに変えていくためには、必要な犠牲だからね……」
「必要な犠牲、だと? そんな犠牲、あってたまるか。犠牲なんてものがあるならば、犠牲の無い方法を探すのが常だ」
「犠牲の無い方法、そんなものを探すというのかね? どうして人間は斯くも他人に甘いのだろうか? もっと自分の意志だけで、自分以外世界には必要無いと思うような強い意志で、行動する人間は居ないものか?」
 フードを被った魔獣の話は、紛れもなく正論だった。
 犠牲の無い方法を生み出すまでに、幾つもの犠牲が生み出される。結果としてその犠牲は、以前の犠牲よりも多くなってしまう。だから人は犠牲を生み出さないといけない。
 そんな話をアルスはかつてどこかで聞いたことがある。その話を聞いた時の初見の感想としては、やはりそんなこと現実的すぎる、という一言に尽きた。
 どうして犠牲を生み出すことを前提に考えているのか。もっと何かいいアイデアは無いのか。犠牲を伴わず、誰もが幸せになるそんな方法はかんがえつかなかったのか。
 思えば彼は昔からそんなことばかりを考えていた。
 魔獣の話は続く。本当ならばカスケルも魔獣に反撃をしたいところだが、話をしているだけなのに、魔獣には隙が見られない。だから、そうかんたんに攻撃することが出来ないのである。
「人間は斯くも愚かな生き物だ。だからこそ私たち魔獣がこの世界には住んでいる。私たちを束ねる存在は、今も目を覚ましてはいないがね」
「束ねる存在……?」
 それを聞いて、思わずマリーは震え上がった。だが、それと同時に当然だと思った。実際問題、この大量の魔獣がそれぞれ自分の意志で動いているとは思えない。普通に考えればそれを束ねている頭領がいても何ら不思議ではなかった。

第二章 10

「迷路の終端が多いな。ほんとうに面倒なダンジョンだ。人で作られたダンジョン、というのも殊更。もしかしたら最奥部の祠に入る人を困らせるためにしているのかもしれない」
「けれどそれで本来そこへ行きたい人が困るのは本末転倒のような気も……」
「まあ、それは言えているかも。けれど、それを私たちが言っても意味がないけれどね」
 彼女たちはそんな会話を交わしながら、ようやく祠までたどり着いた。
 祠の前に立っていたのは、フードを被った男だった。背丈は低く、マリーの胸程の高さしかない。
 彼らはその男を一目見ただけで違和感を覚えた。なぜなら洞窟の扉は閉ざされていた。鍵もかかっている。リナから話を聞いていないということは、この侵入者はリナの知らない侵入者ということになる。その意味は即ち――。
「あなたが、この祠に住まう魔獣、ってことかしら?」
 マリーの問いに、笑みを浮かべる男。
「まあ、そういうことになるのだろうな。私はこの場所に住む理由はただ一つ。この祠の力を無にするためだよ」
「力を……無にする?」
「この世界のバランスを、もう一度もとに戻すためのことだよ。そのためには、それが必要なのだ。だから邪魔はしないでいただきたい」
「邪魔はしないでいただきたい? 何を言っているのやら。私たち人間の平穏を脅かしているのはあなたたち魔獣でしょう? 人間の日常を脅かすのなら、排除するしかないわよ」
「君たちはただ、雇われただけではないか? 少なくとも、あの村には何の関心も抱いていないはずでは? それほどに執着するものがあの村にあるとは到底思えないが」
「心底、私は魔獣が嫌いなのよ」
 そう言って、マリーは持っていた杖を構えなおす。
 杖の先端を、フードの魔獣に向ける。
 たった、これだけのことだった。
 刹那、杖の先端から放たれた水色のエネルギーがフードの魔獣に向かって照射された。
 そしてそこに残されたのは、魔獣の大きさ程の氷塊だった。
「魔法にもだいぶ慣れてきたんじゃないか?」
 そういったのはアルスだった。
 アルスの言葉に、マリーは小さく俯いた。きっと普通ならば喜ぶ絶好のタイミングなのかもしれないが、彼女にとってはまだ不満があるようだった。
「氷魔法なんて初めて使ったから不安だったけれど……。どうやら何とか使えるようね。とても嬉しいことよ。一安心、といってもいいかな。使ったことない魔法は今後も増えていくだろうから、こういうことはまた継続的にやってくるだろうし。少しは慣れておかないと、来るべき戦いに備えることもできないからね」
 魔獣には魔法が有効的な攻撃手段である、と説いたレーベ・スカイアルケー氏による論文が世界に発表されてから十年あまりが経過して、世界は魔法が育成された、魔法使いにとっては大変素晴らしい世界へと姿を変えた。しかしながらまだ武術を教える場所は多い。やっぱり魔法が効かない魔獣も、まだ一握り程ではあるが存在するためである。
「どうやら無駄足だったかもしれないな。あとは直接関係しない機能だらけだから、そう時間もかからないだろう」
 そして魔獣の気配が消えたのを確認したところで、彼らは踵を返し外に出ようとした――その時だった。

第二章 9




 洞窟の中は、入り組んでいた。
 そして強い魔獣もうようよといた。歩いているというよりも屯しているほうが多い。
「あのお嬢さんが言った通りね……。ほんとうに、うようよしているわ、強い魔獣が。これをどうにかするのは、確かに無理でしょうね。普通の人間ならば」
「とどのつまり、俺たちは普通の人間じゃない、って言いたいのか?」
「まさか。そんなことはないわ。私だって普通の人間、カスケルやアルスだって普通の人間。けれど、経験が違う。私たちは今まで魔獣と闘ってきたでしょう? その経験が生かされている、とでもいえばいいのかな。ううん、なんというか……うまく言葉が出てこないな。まあ、そういうことよ」
 マリーの言葉はどことなく歯切れが悪かったが、それでも確信を得ているものだった。
 洞窟の中は迷路になっているが、行き止まりにも大抵道具が落ちているものである。かつて人間がここを通ったのなら何か落としものがあるかもしれないし、魔獣の死骸が腐り落ちて魔石だけ残っていることもある。そういうこともあって、冒険者の大半は迷路系のダンジョンで明らかに行き止まりだと思われる通路でも進む癖のようなものが出来ている。
 突き当りにあるのはキラリと輝く石だった。それが魔石であることに気づくまで、そう時間はかからなかった。
 魔石を拾い上げ、袋に仕舞うアルス。
「魔石の換金って、もうしたんだっけ?」
「いや。リスカンク村には魔石換金所が無かったからな。仕方ないことだし予想はしていたけれど、もうだいぶ溜まってきているよ。早く換金しないとまずいな。まだ別にお金に余裕があるとはいえ、金持ちというわけでもない。無駄遣いをしていると早々に足りなくなることだって有り得る」
「じゃあ次の町で換金しないとね」
 そう言ってマリーはアルスを見つめる。
 アルスもまたマリーを見つめ返し、頷いた。
「ああ、そうだな。まあ、そのあたりは何とかなるだろ。魔石は相当溜まっているから次の町でお金に換えれば、強い武器も手に入るし」
 正直なところ、この会話はダンジョンですべき会話ではない。ダンジョンでは魔獣が地上以上の確率で出現するためだ。だから本当ならばもう少し警戒しないといけないわけだが、しかしながら彼らが余裕を保っているのは、おそらく魔獣が一切出てこないことが原因なのだろう。
 ダンジョンを抜けるまでそう時間はかからない。そう高を括っていた彼らだったが意外とその予想は簡単に打ち砕かれたようだった。致し方ないことかもしれないが、彼らがこのダンジョンが少しスロープになっていて地下深くまで階層が構成されているものだと知るまで少し時間がかかった。

第二章 8

「案外あっさりと行ったものね」
 マリーは塔の鍵を持つアルスに訊ねる。アルスはそれを聞いて頷くと、カスケルのほうを見た。
「カスケルの思惑は、今のところずいぶんと順調に進んでいるということになるが」
「まあ、そうなるな。まさか俺もここまでスムーズにいくとは考えていなかった。嬉しい誤算、ってやつだな」
「嬉しい誤算……か。まあ、これがずっと続いてくれるならば俺も嬉しいのだがなあ。まあ、そうなかなかうまくいかないとは思うけれど」
「毎回思うが、なぜそう毎回ネガティブでいられるわけだ? 少しはポジティブに考えないと、そりゃうまくいかないぜ」
 カスケルの言葉に、アルスは小さく溜息を吐く。その反応からして、どうやら自覚はあるようだった。
 村の外に出て、東へ向かう。この村の入り口は南側にあったため、左へ道を進めば東、ということになる。武器と防具は十分に揃えられるほどの路銀はあったため、ここで集めておいた。なぜ三人がここまで路銀をたくさん持ち歩いているかといえば、たくさん魔獣を倒したこともあるが、もともとある場所から持ってきた路銀の分も加味しているためだ。
「武器や防具も揃えることが出来たし……ひとまずはこれで何とかなるかな。問題はその魔獣がどれくらい強いか、という話になるけれど……」
「なに、何かあったら俺がこの剣でぶったぎってやるさ」
 そう言ってカスケルは自らが腰に携えている剣の鞘をぽんぽんとたたいた。
 その剣は彼がもともと所持している剣だった。鋼のように見えるが、その重さはそれよりもはるかに軽い。細剣(レイピア)に比べるとその刀身は太く、通常の剣とほぼ同じ形となっているところを見ると、その軽さの要因は形状や大きさなどではなく、その材料という話になる。柄の部分には林檎とそれを取り囲むように茨のモチーフが描かれており、とても神秘的なものとなっている。しかしながらそれが神の加護を得ているものというわけでもなく、至極一般的な、普通の剣なのだった。
 カスケルの言葉を聞いて、アルスは笑みを浮かべる。
「ほんと、カスケルの言葉は頼みになるなあ。よろしく頼むよ、カスケル。いざとなったら僕が魔法で何とかするからさ」
「おう。魔法については任せるぜ。なにせ魔法はちんぷんかんぷんだからな。何を言われてもさっぱりわからん。こっちが力で押し通すから、お前は魔法でカバーしてくれ。それで、何とかなる。それで何とかしていくしかない」
 彼らの言葉が交わされていく間にも、目的地である洞窟が近づきつつある。
 海に面した小山の中。それがその洞窟の入り口だった。
「……ここか」
 入り口には、リナの言った通り扉がつけられており、それに鍵がかけられていた。
 アルスはそれを見て鍵を外す。その行動に迷いなどない。一目散に、いとも簡単に鍵を外していく。
 そして、数分ともかからないうちに、洞窟にあった鍵は外れた。
「さあ、行くぞ」
 そして三人は、洞窟の中に足を踏み入れていった。

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