Deprecated: Methods with the same name as their class will not be constructors in a future version of PHP; Smarty has a deprecated constructor in /home/knkawaraya/www/odd_5/smarty/Smarty.class.php on line 64
 oddⅤ -呪われし花嫁と天空城の秘宝-

oddⅤ -呪われし花嫁と天空城の秘宝-

最新の更新分が先頭に表示されます。 最終更新16年1月24日

記事一覧

第三章 18




 アルスはマリーとエイミーを教会から呼び出して、墓の前へと到着していた。
「……ここが塔に繋がる入り口だって言うの?」
 エイミーはアルスの言葉を信じられずにいた。マリーは信じることこそしてくれたものの、いまだ疑心暗鬼である。当然かもしれない。こうもあっさり見つかってしまうと罠かもしれないという疑いをもってかかるのが本来の行動である。
 アルスは答える。
「魔獣から聞いた情報だ。信用していいと思う。ちなみにその魔獣はカスケルが処分して……、あれ、カスケルは?」
「お前の隣にいるだろ」
「うわっ、びっくりした」
 突然アルスの隣に現れたカスケルを見て、目を丸くする一同。
「……人をゴーストか何かだと勘違いしていないか? ……まあいい。とにかく処分に少しだけ時間がかかってしまってね。結局このような時間になってしまった。済まない」
「いや、これだけで十分だ。十分すぎる出来だよ。あとは、ここを通って塔へ向かうだけ……」
「残された町の人は、どうする?」
「とりあえず塔の魔獣を倒してからにしましょう。話はそれからよ。疑っているつもりはないけれど、もし魔獣に弱みを握られているのだとすれば、それを除去してからのほうがいいに決まっているからね」
 エイミーの言葉に頷くアルス。
「それはその通りだ。そして、仮にそうであるならば、魔獣によってさらに被害が拡大する前に何とかしないといけない。……準備は大丈夫か?」
「そんなことを質問しているお前のほうが大丈夫か、アルス?」
 カスケルにそう質問され思わず失笑するアルス。
「心配していたはずなのに心配されちまったら、元も子もないな……」
「それは言わなくていいよ。アルスはずっと頑張っている。諦めずに、ずっと前を向き続けている。それについては何の問題もないよ。だから、諦めないで。諦めてほしくない」
「……ありがとう、みんな」
 アルスは頷いて、そう言った。
 カスケルはその言葉を聞いて笑みを浮かべる。
「まだ泣くには早いぞ。まだ全然終わっていない。まだ何も解決していないのだから。むしろ、これから解決編といってもいい」
「……そうだな」
 零れ落ちる涙を拭ってアルスは答えた。
「よし、前に進もう。俺たちは前に進むしか無いんだ」
 そう言って、アルスは入り口に入っていく。彼らもまた、アルスのそれを見て追いかけていくように中へと入っていった。

第三章 17

 カスケルは腰に携えていた剣を抜いた。そしてゆっくりと魔獣に近づく。
 魔獣たちはまだカスケルが近づく様子には気づいていないようだった。
 即ち、狙うなら今が絶好の機会だった。
「……くらえっ!」
 そしてカスケルの剣はそのまま、魔獣の背中を貫いた。その背中を貫き、さらにもう一方の魔獣の腹から突き刺した。
「がはっ……。き、貴様いったいどこから!?」
「さあ? どこからだろうね。ところできみたちが死んでしまう前に一つ質問したいのだけれど、いいかな?」
「何を質問されても、答えないぞ! ケイグル様のためだ!」
「あ、そ」
 そう言ってカスケルは剣を右回りに一周回した。
「ぐあああ!?」
「何か言ったかなあ? 今、全然聞こえなかったのだけれど?」
「は、話す! 何が望みだ。何を望んでいる!?」
「簡単だよ。塔への道、その入り口を教えてほしいだけなんだけれどね」
「誰が教えるか! それによって……ケイグル様は被害を負ってしまう。そんなことは避けないとならない」
「そっか、残念だなあ」
 笑顔でカスケルはさらにもう二周剣を回す。
「もう正直、こんなことはしたくないのだよ。痛みを与える、拷問のようなことはしたくないのだよ。だからさっさと言ってくれないかな。僕の心が痛む前に言ってくれると非常に助かるのだけれど」
「……教会の小麦畑の奥にある墓、その真ん中を開けるといい」
 軈て、魔獣は一言その言葉をぽつりとつぶやいた。
 それを聞いて笑みを浮かべるカスケル。
「嘘じゃないね?」
「ああ、嘘じゃないとも。ほんとうだ。信じてくれ」
 それを聞いたカスケルは笑みを浮かべたまま、剣を思いっきり貫いた。
 そして魔獣はそのショックで気を失った。
「アルス、君はマリーとエイミーを呼んできてくれ」
「いいが……カスケル、君は?」
「俺はこれの後始末をしておくよ」
 さらりと言われたその言葉に、アルスはぞっとした。
 しかし相手は魔獣だ。人間ではない。だから慈悲など無い。すぐにそう結論付けた彼は大きく頷くと踵を返して走り出した。
 カスケルは気絶した魔獣を見て、つぶやく。
「……まったく、ほんとうに使えないんだから」
 それは誰に対する呟きなのか解らない。なぜならカスケル以外誰も聞いていないのだから。
 そして彼は構えていた剣をそのまま魔獣の心臓へ――突き刺した。

第三章 16




 次の日。
 彼らは魔獣がどこからやってきたのか、うまく空いた時間を縫って探し出すことにした。
 とはいえ、彼らも暇ではない。もしかしたら町の人間が全員魔獣側に回っているかもしれない、と考えたためだ。結果として、町の人間にも隠れて場所を探すこととなった。
 もちろんそんなものが簡単に見つかるはずもない。一日のうちの数時間を探索に費やしただけでは見つけることなど出来ないのだった。
 そして、夜。
「……見つかったか?」
 カスケルの言葉に首を振る一同。
 それを見てカスケルは溜息を吐くことしかできなかった。
 それ以上、何もできなかった。
 そして次の日も、魔獣の経由した通路を探し、夜に報告をする。
 けれども、見つからなかった。
 どこを探しても、魔獣の入ってきた場所が特定出来なかった。
「……いったいどこにあるというんだ!」
 机を叩き激昂するカスケル。
 アルスはそれをただ見つめることしか出来なかった。
 そして数日の刻が過ぎた。

 ◇◇◇

 アルスは休憩をしていた。石の上に腰掛け、水を一口飲む。
 そこで彼は声を聴いた。一人の声ではない。二人以上の声が交互に聞こえてくる。話し合いだ。そう理解した時には先に身体が動いていた。それを確かめるために。それを確認するために。
 路地に入り、声を出す主を見る。そこにいたのはあの時出会った魔獣だった。二匹で何か話しているようだった。
「どうだ、新入りの様子は?」
「ぼちぼちだな。今は普通に働いているようだが、ありゃあ解らないぞ。またどこかで何か悪さを仕出かす可能性も十分に有り得る。やはり力を奪っておいたほうがいいんじゃないかね」
「俺もそう思ったが、なにせケイグル様がそれはしないでいいとおっしゃられるからなあ……。俺も出来ることならそうしておきたいくらいだが」
「確かにそうだ。俺だってそう思うよ。だってあいつら見るからに強そうじゃないか……」
「そうだな。ま、仮にそうであってもここに閉じ込めておけば問題はないだろう、って話だぜ。来る時もそんな遠くない時期にある。あとは天空城を地へ引きずり込むのみ、と言っていたからな」
「だがそれまでの道のりがちょいと面倒なんだろう? なんというか、ステップを正しく踏まないと失敗すると聞いたぞ」
「ああ、それは聞いたな。確か賢者の血を知恵の木に注ぎ込むのだろう? ……おかしな話ではあるが、まあ、それは俺たちじゃない。別のどこかがやってくれるさ」
「それもそうだな!」
 魔獣の会話を覗き見るアルス。彼はタイミングを窺っていた。どのタイミングで突撃すれば、魔獣の隙をつけるか、ということを考えていた。
 だから彼は一瞬気づけなかった。アルスの横にゆっくりと、音を立てずにやってきたカスケルの姿に。
「よう」
 カスケルは一言そう言うと、アルスのほうを向いた。
 アルスは驚いたが、状況を把握しているので声を出さずに目を丸くするだけだった。
「上出来だぞ、驚かれると思ったが、まあいい。それにしてもお手柄だ、アルス。よく魔獣が集まっている場所を見つけた。きっとこのあたりに地下への入り口があるはずだ。いや、吐かせても構わないか。この場合は……」

第三章 15

 アリウスとヒューズはそれだけを言って、踵を返す。これで『洗礼』は終わりだろうか、アルスたちはそう思った。その時だった。
 アルスたちの頭上に水が降り注いだ。
 それがすぐに水属性魔術の応用からよるものであると理解したのはマリーだった。
「それが洗礼の終わり、だよ。一応言っておくと、これにより洗い流すということだ。何を洗い流すか、って? 簡単なことだ。もともといた世界での業を洗い流すということだよ! どうせ当分ここから脱出することはできないのだからな!」
 アリウスはそう言って高笑いした。
 ヒューズもそれに釣られて笑みを浮かべる。
 アルスたちはただそれを――堪えた。ここで何かしでかしたらそれこそ一生脱出できなくなる。今は耐え忍んで、機会を探すしかない――そう思ったためだ。
 だからアルスたちは何も言わなかった。何もしなかった。
 反抗の意思を示さなかった。
 そしてアリウスたちが姿を消して――しばらくしてようやく彼らは解放された。
「大丈夫かい、あんたたち。何も言わなくてごめんね」
 宿屋の女性がアルスたちにタオルを差し出した。タオルを受け取り頭や顔、濡れてしまった場所を拭く。
「ありがとうございます、タオルまで用意してもらって」
「いや、何も言わなかったこっちも問題があるからね。別に問題はないよ。……一応、宿屋に戻ればお風呂もあるけれど、どうする? 今から戻って入るかい?」
「ティーヌさん、いくら何でも見ず知らずの旅人にそこまでしてやる必要はないんじゃないかい?」
 そう言ったのは武器屋の店主だった。武器屋、といっても壁を壊すときに使うスコップなどを主に仕入れている。価格は若干高めだが、それ以外に買うことのできる店が無いため、みなそこで購入している。
 武器屋の店主の言葉を聞いて、ティーヌは鼻で笑った。
「別にいいだろ。私はお節介焼きなんだよ。彼らの手助けをしてやるくらい、別に構わないだろ?」
「……う、まあ、そりゃあ……そうかもしれないけれど。俺たちにだって仕事がある。何もその旅人に構ってやることも……」
「旅人は今日から、この町のルールにのっとってとっくに仕事を始めているよ。それに問題があるというのかい?」
 それを言われて、言い返すことのできる人間は誰もいなかった。
 ティーヌは手を叩いて、
「さ、そうと解れば戻りなさい。あとは私がやるから。……ああ、待たせて済まなかったね。急いで宿屋に戻ることにしようか。そのままだと風邪を引いてしまうからね」
 そう急がせて、アルスたちはティーヌの言う通り宿屋に戻ることになった。

第三章 14

「だから言っただろ? もう考えは決まっているって。上がダメで、陸上がダメ。なら残された場所は? ……って話だ」
「まさか――!」
 それを聞いてピンと来たエイミー。
 ニヤリと笑みを浮かべたのはカスケルだった。
「そう。空と陸上がダメならば、残された場所は地下だけだ。もちろん、警戒されている可能性は否めないだろうが、あいつらも入るルートを考えて作っているはずだからな」
「あいつら、って?」
「魔獣のことだよ。まさかあの塔の魔獣、人間をここに放り込んだだけで管理をしないとは思えない。きっと管理をするために使い魔を送り込んでいるはずだ。そいつらがどこから経由しているか……そこが重要になる」
 カスケルがそう発言したと同時だった。
 夜の街に、鐘の音が鳴り響いた。
 その鐘は教会の上にある、古い鐘だった。その鐘が何者かによって鳴らされている。
「……いったい何があったんだ?」
 それから少しして、扉が開かれる。
 中に入ってきたのは、彼らを助けてくれた女性だった。
「あんたたち、大変だよ! 急いで外に出ておくれ!」
「何があったんですか!」
「私としたことが忘れていたよ……。新入りが入った日にはまず、洗礼があるんだ!」
「洗礼? なんですか、それは」
「いいから急いで! 魔獣に怒られちまう!」
 それを聞いて、彼らは目配せをする。お互いに頷いて、そこへ向かうことを決意した。

 ◇◇◇

「お前たちが新入りか?」
 魔獣はアルスたちに開口一番そう告げた。
 教会の前には翼を生やした魔獣が二匹立っていた。そしてアルスは魔獣たちを前にして頭を垂れている。正確に言えば頭を垂れさせられている。そうしないと魔獣は怒ってしまうらしい。沸点がよっぽど低いと見えるが、それを言ってしまうと猶更苛立ってしまうとのことなのでアルスはそれを言わないでおいた。
「……まあ、いい。五人も入ったことはいいことだ。さらにこの町の仕事が弾むという話だ。簡単に自己紹介でもしておこうか。ああ、お前たちのことはどうでもいい。仕えるべき存在の名前くらいは把握してもらわないとな。顔を上げろ」
 そういわれたのでアルスたちは顔を上げる。
 そこにいた魔獣二匹は踏ん反り返っていた。要するに自分たちの地位を誇示しているのである。きっと彼らの地位は塔にいる魔獣が決めたものだから彼ら自身が決定したものではないというのに、とアルスは思った。
「私の名前はヒューズだ。よく覚えておきたまえ」
 人間のように眼鏡をかけた魔獣はそう言った。
「そして私の名前はアリウスだ。覚えておけ。一応言っておくがお前たちの行動はすべて灯台に居られるケイグル様に伝えられる。お前たちが仮に謀反でも起こそうという気を一瞬でも起こしたら、それはすべてケイグル様に伝えられることになるからそのつもりで」
 アリウスの言葉の後、場は静寂に包まれた。これを新入りが入るたびに聞かされているのだ。住民にとっては耳に胼胝ができる程聞いた言葉なのだろう。もうその言葉を無言で受け入れるしかない程、彼らは追い詰められていたということになる。

第三章 13

 カスケルの話は続く。
「百年、というのはあくまでも可能性だ。それが二百年に延びる可能性もあれば五十年に縮む可能性もあると思う。ただ、少なくとも十年以上はかかる計算だ。正直言って、そこまで待つことは俺にはできない。そしてそれはきっと、マリーやアルスも思っているだろう」
「……それもそうね。できることなら早く目的を達成したいことだし、こんなところでいつまでも留まっている必要はない。ならば、さっさと壁を破壊すればいいってこと?」
「いいや。壁の破壊は難しいだろうな。壁を実際に見なかったか? 鏡のように磨き上げられた壁だよ。石なのか、鉄なのか、それ以外の材質によるものなのか解らないが、いずれにせよあの磨かれた鏡のようなもののせいで魔術が一切効かないらしい。それどころか反射して跳ね返されるという程だ」
「あの鏡みたいな壁ね……。確かにあれなら魔術の効果は薄れるでしょうね。けれど、攻撃では壊せないのではなくて?」
「壊せないね。確かにその通りだ。剣やスコップなどで攻撃しているけれど、傷一つ付きやしない。だが、それでもいつかは壁を破壊することが出来ると思っているらしい。そこで何か言ってしまったら、おそらく暴動に発展するだろうし、意味のないケガをしてしまうのは良くないことだったから言わなかったが」
「それはいい判断ね。きっとケガするだけでは済まなかったかもしれないわね。……しかし、それを聞いたとなるとどうすればいいかが難しくなってきたわね」
 エイミーの言う通りだった。
 四方を岩山に囲まれた町、エイスルク。
 唯一違和感がある場所――壁は魔術でも打撃でも傷一つつけることが出来ない。
 まさに八方塞がり、だった。
「……しかし、そうだとするならば。そうであるならば、どうすればいいの? 問題は山積みよ。このままだと一生脱出することが出来ないというのならば、なおさら」
「まあ、待てよ。俺が何も考えずにこれを指摘したと思っているのか? だとすれば、あんた、見る目ないよ」
 エイミーはカスケルにそう言われ、少しだけ頬を膨らませる。苛立ちを募らせている状況で、そう煽られたような言葉を返されれば怒りが強くなるのも当然だろう。
「……それもそうかもしれないわね。それじゃ、何か具体的な解決策があるのでしょうね?」
 よくぞ聞いてくれた、と前置きしてカスケルは立ち上がる。
 そしてカスケルは上を指さした。
「……上?」
「空は飛べることが出来ないからダメだ。そうだろう?」
「そうね。翼が生えているのならば、話は別だけれど。転移魔術でも使えたとしても、きっと対策はしているでしょうね」
「ああ、対策はしていると思う。現に日中空を見つめていたが、うっすらとバリアのようなものが見えた。きっとそれが外から助けが来ないためと、転移魔術などで脱出させないための障壁なのだろう。しかし、陸上は四方を岩山に囲まれ、唯一岩山に囲まれていない場所も絶対に壊すことのできない壁があり、まさに八方塞がり。これが現状となっているわけだ」
「そうよ。わざわざ振り返らなくても誰だってその事実には気づいている。問題はそこから。どうやってここから脱出するか? ということよ」

第三章 12

 夜。
 宿屋の一部屋にて、アルスたちは話をしていた。
「……で、どうだった? 女性だけの仕事、というやつは」
 アルスが話を切り出すと、小さく溜息を吐いてマリーは首を横に振った。
「予想外だったわよ。教会で食事を提供するだけ。忙しいことだったけれど、まあ、食事つきだったのがよかったことだったかもしれないわね。あとこれももらえたし」
 そう言ってマリーは袋に入ったお菓子のようなものを差し出した。
 それを見たことのなかったアルスは、見て首を傾げる。
「これは?」
「ガレット、よ。甘いお菓子なんだけれど、たくさん食べてしまう人のためにも材料を少なく済むらしいのよ。なにせ教会の裏には小麦畑があるくらいだし……」
「成る程ねえ」
 アルスは相槌をつく。
「……小麦畑が出来るくらいならもっと別な食べ物くらい思いついてもいいと思うが。例えば、麺類だって作れるのではないか?」
「それを言うのはどうかと思うけれど……。まあ、間違った話では無いよね。実際問題、面も作れるとは思うけれど、きっと調味料がそんなに多く持っていないのだと思う。塩だって海に面していないから岩塩を採らざるを得ないでしょう? けれど、シスターさんの話によればこの辺りは岩塩なんて全然採れない、って……」
「正直、この町の人間の栄養状態は良いとは言えない。むしろ悪い方向に進んでいると言ってもいいだろう」
 そう話を切り出したのはエイミーだった。エイミーは腕を交差させて考え事をしているようだったが、どうやら何らかの結論を導いたらしい。
「やはり、そう長い時間ここに滞在しないほうがいい。できることならこの町の人々を元居た場所に戻してあげたいところだけれど……」
「それについては、俺が一つ意見を述べていいだろうか」
 そう言ったのはカスケルだった。
 頷いて、エイミーは右手を差し出す。
 了承を得られたと考えたカスケルは話をつづけた。
「俺とアルスが向かった場所は、巨大な石の壁だった。そして男たちはその壁を毎日掘っている。どうやら、というかその壁はとても硬度が高い壁でね……。その壁を破壊すれば、どうやら抜け出すことが出来るらしいのだが、それがなかなかうまくいかない」
「ということは……町の人々はそれを信じて毎日壁を掘っている、ということなの……?」
 こくり、とカスケルはその言葉に頷いた。
「ただ、それについては一つ疑問があるんだが」
「疑問?」
「ああ。――俺の見立てが正しければ、あの壁はきっと百年経っても壊れることはない。ずっと一生ここに閉じ込めておくために魔獣が仕掛けた希望だと思う」
「……百年、ですって?」
 カスケルから聞いたその言葉。それはアルスたちにとって信じがたい言葉だった。もしカスケルの言葉がほんとうならば彼らもまた一生抜け出すことが出来ないからだ。

第三章 11

 次に彼らが目を覚ました時、そこは宿屋だった。
「……ここは?」
 起き上がるとひどい痛みですぐに横になるアルス。
 すると誰かが近づいてきた。その誰かとは女性だった。
「どうやら目を覚ましたようだね。あのまま死んでいたかと思ったよ。まあ、死んでいたとするならばそのまま土に埋めちまうだけだけれどね」
「……ここは?」
 起き上がれないのでそのまま横になった状態で問いかけるアルス。
 女性は溜息を吐いて話を続ける。
「ここは岩山に囲まれた町、エイスルクだよ。誰もここから抜け出すことはできない。薬もないから弱った人間が助かることもままならない。聖水があの清水から湧き出ているのが唯一の奇跡といっても過言ではないだろうね」
「岩山に……囲まれた町?」
 アルスの言葉に、女性は踵を返すだけだった。
「まあ、簡単に言えばこの町は誰も誰かを助けようなんて思っちゃいない。みな必死に働いて生きている。こんなところでくたばりたくないからね。やっぱりいつかは自分の住んでいた場所へ戻りたいってものだよ。だから必死に生きている。……感じからすれば、あんたたち冒険者だろう?」
 こくり、と四人を代表して頷くアルス。
「ならちょうどいい。手伝ってほしいことがあるんだよ。冒険者とか戦士とか、そういう腕っ節の効いた連中が集まって実施している仕事がある。まずはそいつをやってもらおうか」
「……あの」
 言ったのはマリーだった。
「ああ、そうか。女性も居るね。女性は別の仕事が待っているよ。とりあえず宿屋のお手伝いでもしてもらおうかね。ここに家を構えていない人間が実質ここを家にしている人間がいるわけだよ。まあ、ここじゃお金なんて何の価値も無いけれどね」
 そう言って女性は半ば強引にマリーとエイミーを連れて行った。
 残されたアルスとカスケルは仕方なく女性の言うことを聞くことにした。
 先ずは仕事をこなす必要がある。そう考えた彼らは大急ぎで宿屋を出た。
 宿屋を出るとその様相に目を疑った。
 そこに広がっていたのはどこか崩れてしまって家の形を保っていない家、泥水を啜る子供たち、ボロボロの服を身にまとった男たち。まるでならず者が集まってできているような町になっていた。
「なんだよ、これ……」
「これがみな、あの魔獣によって突き落とされた人々だって言うのかよ。こいつは予想外だぜ……。まるでほんとうに一つの町を形成しているようだぜ」
 カスケルの言葉にアルスは頷く。
 しかしこんなところで話をしている場合ではない。
 先ずはあの女性に言われた場所に向かわなくてはならない。
 そう思って、彼らは町の北側へ向かった。

第三章 10




 階段部屋をクリアし、七フロアもクリアし、最後のフロアへと到着した。
 そこは屋上――と思われたが、少し仕組みが違っているように見えた。
 そこにあったのは玉座だった。そして玉座には一体の魔獣が腰掛けていた。その魔獣は人間のような姿をしていた。頭には角を生やし、緑色の身体をしているところを見ると人間ではなくますます魔獣であると思わせる。
「ほう。人間がこの塔にやってくるのは久しぶりだな」
「……まさか人語を理解して話す魔獣が居るなんて」
「ははは! そこに驚くか。しかし魔獣は面白いぞ。お前たちが思っている以上に。人語も理解し使う。そして人間の姿にとって代わって行動している魔獣だっている。我々にとってあいつは理解しがたい存在だが……ただ人語を話しておくのは人間とのコミュニケーションツールとして役立つ。これ以上便利なものはあるまい?」
 確かに、その魔獣の言う通りだった。
 人間の場合でも支配するならまず宗教と言語を、と言われている。実際問題、言語と宗教は人間の生活の中で切っても切れない関係にある。だからそれをコントロールしてしまえば容易にコントロールすることが出来る、ということだ。難しくない、非常に簡単かつ明確なことだ。
「灯台の光を元に戻せ」
 エイミーは錫杖を魔獣のほうに突き立てた。
 魔獣は豪快な笑みを含み、そして手を差し伸べた。
「――答えはノウ、だな。そんなことできるわけがなかろう? 人間としてそれを言っているのならばなおさら。我々にも我々の理由がある。そのためにはこの灯台を使うことが大事というわけだ。それくらい理解していただきたいものだよ」
 そして魔獣はエイミーたちを指さした。
 ただ、それだけのことだった。
 エイミーたちの立っていた床が突然崩落したのだった。
「!?」
「我々が人間をただ招き入れるだけと考えていたのならば、それは甘い考えということだよ。さあ、そして絶望するがいい。人間は無力だということを。そして、人間は魔獣に頭を垂れるしかないということを理解し給え」
「貴様ア――――――!」
 落下しながら、それを見つめながら、それを睨みつけながら、エイミーは叫んだ。
 そしてエイミーたちは――そのまま闇の奥底へと消えていった。

第三章 9

 五フロア目。ここから少し塔のフロアが小さくなっていく。塔の形状が段々となっていることが原因なのだろう。そして大部屋が増え、その代わりなのか魔獣が減った。
「あまり魔獣が住み着いていないエリアのようね……。それにしても、これはラッキーなことよ。今のうちに次のフロアへ行ってしまいましょう」
 そう言ってエイミーは次のフロアへと続く階段を探し始めた。
 もう気が付けば四人で共同戦線を張っていることになるのだが、アルスたちはそれに気づいていなかった。というより、誰も気づいていなかった。

 ◇◇◇

 六フロア目。
 ようやく終わりが見えてきた段階になるが、それでも魔獣の姿は多い。
「どうやら姿が少なかったのはさっきのフロアだけになるのかもしれないね。もしくは偶然か」
「きっと偶然でしょう。そうでないと、この説明はなかなかつけられない。さっきのフロアだけ魔獣が少ないのならば、きっとそれなりの理由があるはずですし」
 エイミーとアルスは冷静に状況を分析する。
 対してマリーとカスケルはこの状況をどうするか考えるよりもアルスとエイミーの決断に従って動いたほうがいいという判断に至ったためか、二人の会話に参加するだけだった。
「魔獣を倒すにはきっとそれなりのパワーが必要ね。……アルス、魔力は?」
「それなりに残っているよ。回復薬も使おうと思えば使える。けれど、できることなら使いたくないね。もう少し後まで残しておきたいところだ。なにせこのあたりでは販売していないようだし。ほんとうに偶然手に入った代物だからね」
「……確かに魔力の回復薬はなかなか手に入らない代物だからね。このあたりの商人が喉から手が出る程ほしい代物だと言っていたわ。こっちだってほしいくらいだから得ることなんてしなかったけどね。そんなこと、悪手よ」
 アルスとエイミーの会話は続く。
「ということは、魔力の回復薬は持っている、と」
「ええ。そういうことになるわね。……不安なら一個差し上げましょうか? まだ余るくらいには持っているから」
「え、いいの?」
 そう言いだしたのはマリーだった。
「おい、マリー。いま会話をしているのはエイミーとアルスであってお前じゃないぞ」
 言ったのはカスケルだった。
 だが、それを無視して、
「ねえ、アルス。戴いちゃいましょうよ。これからどんな戦闘が待ち受けているとも限らないし。こういうものは幾つあっても困らない。そうでしょう?」
「まあ、確かにそうかもしれないが……。けれど」
「いいんですよ、私は別に。まだ余る程ある、といったでしょう? 友情の証、ですよ。これからながく旅を続けるかもしれませんしね。仮に長く続けないにしろ、ここで会えたのも何かの縁ですから」
「……そうですか?」
 アルスは徐々に彼女の話に耳を傾け始める。
 エイミーはそのアルスを見て笑みを浮かべる。
「ええ、そうですよ」
 それを聞いてアルスはエイミーの右手にある回復薬を、ゆっくりと受け取った。
「それじゃお言葉に甘えて」
「ええ。ぜひ使ってください」
 そして二人の会話はようやく終了し、次にこのフロアをどう抜けるかの作戦会議に移った。
「ここが六フロア目。外の形状からして段々になっているのだから……きっと階段は真ん中にあるはず。だから真ん中に行けば、きっとあるはずよ」
「真ん中……か。しかしここから真ん中はかなり至難の業だぞ。ここは魔獣がまだいないが、真ん中には部屋がある。それが大部屋なのか小部屋の塊なのかも解らない。場合によれば見たことのない魔獣がわんさかいる可能性だって否めない」
「そうね。それは否定できない。けれど、行くしかないのよ。何があるか解らないけれど、灯台を操る何者かを倒すためには。……感じからするとあなたたちも何かのっぴきならない事情を抱えているようだけれどね?」
「え!?」
「ふふ、あわてる必要はないよ。ただそう見えただけ。私って、意外と観察力あるのよ?」
 それを唐突に聞かされて、余所余所しい笑みを浮かべるアルス。
 まあ、とエイミーは切り出す。
「それについて掘り下げる必要はないね。要は、私たちは人々の不安を取り除けばいい。それによって万事オールオッケイ。そういうことでいいかな?」
「そういうことになりますね」
 エイミーの言葉に三人は頷く。
 そして彼女は、うんと大きく頷く。
「さてと、それじゃ一気に向かうとしましょうか。残念ながらここから先は私も見たことのない、言わば未知数の世界です。だからほんとうにどうなるのか解りません。実際にそこに行ってみないと解らないのですよ。でも、きっと乗り越えることが出来るはずです。あなたたちならば、それができるはず。……さあ、行きましょう!」
 そしてエイミーたちは階段部屋の攻略へと走り出した。

ページ移動

PHP Blog

Deprecated: Directive 'track_errors' is deprecated in Unknown on line 0