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 oddⅤ -呪われし花嫁と天空城の秘宝-

oddⅤ -呪われし花嫁と天空城の秘宝-

最新の更新分が先頭に表示されます。 最終更新16年1月24日

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第四章 3

「結局、見極めることはできたんですか?」
「いいや、まだだ。まだ時間はかかるだろうね。はっきり言ってそう簡単に終わることのできるものではない。それは理解している。だからこそ、だからこそ私はその結論を見つけたい。この世界に答えはない――そう思ったこともある。だが、理解したくない。考えたくない。間違えたくない。私としてはこれを早く見つけておきたい。でも旅はずっと続けたい。永遠に、永遠に続けたい」
 それを聞いたアルスは笑みを浮かべる。
「でも、人間の寿命には限りがありますよ。いくら永遠に続けたくてもそう簡単に続けることはできませんよ」
「そうかもしれないな。だが……寿命が続く限り私はそれを続けたいと思うわけだ。たとえ病気になろうとも、私の生きている意味を突き止めるまで私は旅を続けたい。……アルス、君はそう思わないか? 私の旅に共感はしないか? ……まあ、別に強制はしないが」
「共感しないかどうかといわれると曖昧なところだけれど……少なくともそれを否定することは出来ないよ。だってそれはエイミーが決めた生き方だから。僕が否定することは出来ない」
 それを聞いてエイミーは頷いて、再び海を眺めた。
「そうか……。まあ、すぐにそう決めることでもないし、はっきり言って決められることでもない。仮にここで君に否定されたとしても私は旅を続けるだろう。私が旅をしたくない理由を決めるまで、それはずっと続くだろう」
「おおい、みんな! 急いできてくれ!」
 カスケルの言葉を聞いて、アルスは立ち上がる。エイミーもそちらを向いて、言った。
「あの声はカスケルだったか。いったい何があったというんだ? ……もしかして、島が見つかったのか?」
「解らない。でも一応行ったほうがいいかもしれないね」
 そしてアルスはそちらへと向かった。エイミーは小さく溜息を吐きつつも立ち上がり、彼の後を追うように歩き出した。

 ◇◇◇

 カスケルの場所へと向かうと、すでにマリーとエヴァは到着していた。そもそもエヴァはもともとカスケルのところにいたことは事実なので到着していた、という言葉は誤用となるのだが。
 カスケルはみんなが集合したことを確認して、開口一番こういった。
「どうやら、大陸が見つかった。まもなくこの船は大陸に上陸することになる」
 それを聞いてカスケルに詰め寄ったのはマリーだった。
「どれほどの大きさか、っていうのは解るの?」
「それはエヴァから説明してもらうことにするよ。よろしく頼む」
「はい」
 カスケルから言われてエヴァは頷く。エヴァが持っていたのは海図だった。海図は普通の陸上中心に描かれたそれとは違い、海がほとんどとなっている。しかしながらほかの大陸も描かれているため、洋上で見るときは海図のほうが役立つのである。もっとも、この世界には世界地図が流通しているので海図の必要性も徐々に減っているのだが。

第四章 2

「自然な話……ね。確かにそうかもしれない。けれど、それでほんとうにいいわけ? その『自然』が『当然』になってしまったなら、その先に残されているのは、誰も信仰していない神をお金だけで信仰させる最低最悪なディストピア。そうして何も生まれない。その結論が生み出すものは、単なる無意味よ」
「……そ、そうね。確かに言われてみればそうかもしれないわね。けれど、そこまで怒る必要も無いと思うけれど……。ムキになる、とでも言い換えればいいかしら?」
 それを聞いてエイミーは何も言えなかった。
 何も言わなかった、というよりも。
 何も言いたくなかった、というほうが正しいかもしれない。
「……ま。あなたがどのような過去を生きてきたのか別にいい。私たちの仲間になっている以上、そういうところは詮索しないことにしているから。だからあなたも私たちの過去は詮索しないこと。いい?」
 こくり、とエイミーは頷いた。マリーはそれを見てまた元の位置へ戻っていった。
 それと同じタイミングで今度はアルスがやってきた。
「すいません、マリーが迷惑かけて。あいつ、ああ見えていいやつなんですよ。なので大目に見てくれると非常に助かります」
「まあ、ああいうのが可愛げがあっていいものだ。……それにしても、アルス。船の操縦はどうした? お前があの船を操縦しているのではないのか?」
「どうやらあれはしばらく経つと自動運転になるそうなんですよね。そうじゃないにしても、誰か操縦桿の前に立っている必要はなくて港に近づくところだけ手動にすればいいらしいので、今はカスケルが担当してもらっています。ずっと僕が操縦していてもいいんですけれどね」
「そうか。……まあ、ずっと操縦していては疲れるだろうからな。あとで私も操縦方法を聞いて覚えることにしようかな?」
「それは助かります」
 アルスは瓶に入ったジュースを一口呷る。
「……それにしても、海はほんとうに広いですねえ。こんなに時間がかかっても、まだ全然島が見えやしないなんて」
「そもそもこの世界は大陸と大陸がだいぶ離れている場所が多い。グランベルのあった大陸……シグニア大陸はほかの大陸と比べて離れた位置にある。あの大陸が辺境と呼ばれているのもそれが理由だろうな」
「そうなんですか。僕は生まれてこの方ずっとシグニア大陸に住んでいたものですから……。エイミーさんはずっと旅を?」
「エイミーでいいさ。ああ、そうだよ。確かにずっと旅をしてきた。ずっと、といってもかなり長い間ではなくてここ数か月というわずかな時間だけれどね。自分の信じているものが、ほんとうに正しいのか。それを見極めるために旅をしているというわけだ」

第四章 1



 どこまでも広がる青い海。
 そしてどこまでも広がる青い空。
「……平和ねえ……」
 マリーは甲板の上、タルを椅子代わりにして空を見つめていた。どこまでも広がる海と空、その境界が地平線となっていて、それが交わることはない。
「なんというか、ほんとう海っていいところよね。潮風が気持ちいいし。ただ難点があるといえば上にある日差しってやつよ」
 上を指さして、エイミーは言った。エイミーはずっと着用していたシスター専用の修道着ではなく、白い半袖シャツを着ていた。そのためか、少し透けて見える。アルスとカスケルは別段それを見ようとするわけではないが、その透けた部分がマリーにとって至極気になっていた。
 だから、マリーは立ち上がるとエイミーのそばに立った。
 エイミーはマリーの様子に気づいて、笑みを浮かべる。
「どうした、マリー? そんな困ったような表情を浮かべて、どうしたというんだ? 私が何か悪いことでもしたかな」
「悪いこと、ううん、正確に言うとそうではないわ。けれど、それ……透けているわよ。見えちゃわない?」
 ああ、これ? と言って彼女は襟を伸ばす。ちょうど彼女は立っていたのでそこからたわわなエイミーの乳房が見える。
「だーかーら! それをやめなさいと言っているのよ!」
「もしかしてマリー、拗ねているのかしら? 自分にはそれほどのサイズのおっぱいが無いから、卑下しているのよね。解るわ、私だって昔はあなたみたいだったもの。けれど、大人になれば人は変わる。おっぱいだって大きくなる。だから諦めないで頑張りなさい。きっといつかおっぱいは大きくなるから」
「おっぱいおっぱいうるさいなオイ! あんた意外と痴女だな!」
「痴女とは失敬な。私はこれでも神に仕えるシスターですよ? まあ、世界最大のあそことは違う宗派ではありますけれど」
「世界最大の……ああ、あそこのことね。聖霊教会。なんでも教徒が一億人近く居るんでしょう? 全世界の人口の八十五パーセント以上が聖霊教会に関する人間ともいわれているくらい、あの教会の層は分厚い。だからこそ、あそこから教徒を奪おうとしている弱小宗派は多いはずよ」
「けれど、それと同時に対立する宗派もあれば、中立する宗派もあったし、聖霊教会に取り込まれることを自ら選択した宗派もあった。いずれも同じ選択だけれど、最後の選択だけはどうも納得いかない。自分の信じる神を裏切ることと同じことだからね、その選択は」
「まあ、確かにその通りかもしれないけれど、生きていくためには仕方ないことだったのかもしれないですよ? 実際問題、いくら神に祈っていたとしても生きるためにはお金が必要だし、そのためには信じる神や組織が大きければ大きいほどいい。ともなれば聖霊教会への合流も自然な話と言えますし」

第三章 25

「かなり最先端なのは確かだけれど、あまり見たことが無いように見えるけれど?」
「……う、うむ。エヴァにそれを言われると少し悲しい。つまりどういうことかといえば、この船は新しすぎたといえばいいだろうか。この時代はまだ帆船が大流行中、今だブームの真っただ中といってもいい。その状況で魔動機を使う船というのはあまりにも珍しすぎた。定期的にメインテナンスこそしているが、あまりリスカンク村の方は使いたがらない。のちに聞いたのだが、新しいものにするのは別に構わないが、それによって注目を浴びすぎることは嫌だ、とのことらしいのだ。仕方ないかもしれないが、我々としてみればひどく悲しいことなのだよ。帆船の時代から切り開くための、新しい仕組みの船。これから広がるかもしれないのに、退路も進路も断たれてしまった。非常に悲しい船なのだよ」
 それを聞いているうちにアルスたちは、この船に一つの結論を導いた。
 もしかしてアルスたちは面倒なものを押し付けられただけなのではないか、と。
 もしこの船が仮に最先端のものであったとしても、使うまでに幾分の時間はかかってしまう。きっとそれは免れないことだろう。ただし、それを考えても帆船にしないかと言われるとそうじゃないかもしれない。帆船を今から決めるのは金銭的余裕がないためだ。
 だからもともとは安い定期船を利用していこうと考えていた。確かに金銭的余裕がないことは事実だが、海が渡れなければ何の意味もない。一方、船賃は一人七十ルクス。実にカルヴァスの宿代の七倍ということになる。それを使うことは断腸の思いであったが、旅のためだ。致し方ない――そう思っていた。
 しかし、船を手に入れた。さらに航海士まで手に入った。お嬢様っぽい風貌からしておそらくバトルの数には入れることが出来ないだろう。それを考えてもパーティに入れることは確定といってもよかった。なぜなら航海士が居ることで洋上の旅がかなりスムーズに進む。
 だからこそこれはチャンスといってもよかった。お金を一切使うことなく、海に出ることが出来る。広い世界を旅することが出来る。これは彼らにとって大きなチャンスであり、これを生かさない手はないと考えていた。
「……それでは、私はそろそろ陸にもどるよ。おそらくこの船はもう海に旅立つのだろう? 私がずっとここに居ても動くことが出来ないだろうからな。だったらさっさと出てしまわないと話にならない。それでは、良い旅を。エヴァ、きちんといい子にしているんだぞ。つらくなったら、戻ってきてもいいからな」
「うん。お元気で、お父様」
 エヴァは笑顔で手を振った。
 そして、アルスたちと町長は甲板に上がり、町長だけ陸へ戻った。
「それでは、また会おう。ご武運を!」
 碇が上がり、船がゆっくりと大海原に向かっていく。
 手を振る町長たち、町の人々に手を振り返すマリーとカスケル。
「……そういえばエイミーさん、どうして乗っているんです?」
 操縦するアルスの横に居るエイミーは退屈そうに欠伸を一つして、
「別についてきたっていいじゃないか。こんな広い船なんだし。私としては別に目的はあまり無かったし、いいんだよ。それに君たちにとってはメリットばかりじゃないか? 私は賢者を目指しているからね、かなりの魔術を使用できるぞ?」
「まあ、アルス。別にいいじゃない。にぎやかな旅というのも、面白いものよ?」
 マリーの言葉を聞いて、何も言えなくなったアルス。
「まあ、そういうわけで。よろしく頼むぞ、アルス?」
 エイミーはアルスに対して、そう言って、笑みを浮かべた。
 船はゆっくりと大陸を離れて、大海原へと向かっていく。
 広い世界の、まだ見ぬ大地を目指して、彼らの旅はまだ続く。




第三章 終

第四章に続く。

第三章 24

 それを聞いてこくりと頷くエヴァ。
 町長は小さく溜息を吐いて、彼女の頭を撫でた。
「私は何も、お前に悪いことをしたいから言っているわけではないんだ。ただお前が心配なだけなのだよ。けれど、お前が旅に出て知見を広めたいのならば話は別。お前の意思を尊重してやりたいことは、解ってくれないだろうか?」
「……解っているよ。それは無理なんでしょう、って……え?」
 もともと無理だと思っていたのか、俯いてそう言っていた彼女だったが、町長の意見を聞いて顔を上げた。それほど、予想外の反応だったのだろう。
 彼は話を続ける。
「別にお前のことが嫌いだから、外に出すつもりではない。これだけは理解してほしい。はっきりと言ってしまえば、お前のことが好きだ。だからこそ、お前には立派に成長してほしい。できることなら世界のすべてを見てほしいくらいだ。だが、私ではそれをかなえてやることが出来ない! だから、一緒に旅をしてほしい人を探していた、というわけだ」
「それが僕たちである、と?」
 アルスの言葉に町長は頷く。
「別に、君たちに強制するわけではない。ダメならばダメと言っていい。だが、航海士が居ないとダメなことはきっと君たちも知っているだろう?」
 その言葉を聞いて――彼らの選択はひとつしかなかった。

 ◇◇◇

 港。
 一艘の船が、入港していた。
 入港というのは間違いかもしれない。正確には、ドックに入っていた船をここまで連れてきたというだけの話である。
 船乗りたちが帆を張り船の掃除をしている。ちなみに彼らはついてこない。あくまでもアルスたちだけで船を運転するということになる。
「ちなみに、この世界の船とはどういう仕組みで動かしているか知っているかね?」
 船底にある一室に町長はアルスたちを連れてきた。
 そこにあったのは、緑色の液体が詰められたガラスの瓶だった。
「これは……?」
「これは魔力が蓄積されているタンクだ。これは魔動機に繋がっている。魔動機についての説明はいるかね?」
 魔動機――ガラス瓶から管が伸びて直接繋がっている機械のことだ。魔動機は名前の通り、魔力を原動力として動く機械である。
 要するに自然にあるエネルギーを機械的エネルギーに変換する装置、それが原動機というが、それを魔力で補う、とどのつまり魔力を機械的エネルギーに変換する機械のことを、魔動機というのだ。
「まあ、簡単に言えばこのスイッチを動かすことによってエネルギーは魔動機へと渡っていく。魔動機はエネルギーを機械的エネルギーに変換し、タービンを回す。船底に水が循環しているのでそれによって蒸気が生まれる。そしてそれによりスクリューやプロペラを回すことによって、ようやく前進することが出来る。かなり最先端な船なのだよ、この船は」

第三章 23

 そこで町長は何かを思い出したかのように顔を上げた。
「そうだね。ここはひとつ、いい人手を授けよう。船は持っていると聞くが、船乗りはまだ居ないのだろう? だったら、船乗りが一人くらいいてもいいだろう。船乗り、とは言うが正確に言えば航海士だ。海図をきちんと読むことが出来る人間が一人いることは、ずいぶんと楽になるぞ」
「航海士……か。確かに町長さんの言う通りかもしれないぞ、アルス」
 カスケルの言葉を聞いたアルスはそちらのほうに振り向いた。
「どういうことだ、カスケル? 別に航海士が居なくても海は進めそうなものだが……」
「そうじゃないよ。海というものは危険がいっぱいだ。確かに進めそうなものかもしれないが、ただ海というのは陸地が見えても、その特徴をすぐに見分けないと……正確に言えば、海図を正確に読めていないと、その陸地がどんな大陸かなんてすぐに判明しないだろ? だから航海士は絶対に必要だ。マリーもそう思うよな?」
 カスケルの問いに、マリーは頷いた。
「カスケルの言う通りです。もともと航海士は船を手に入れたことですから、この町で雇うつもりでした。仲間として迎え入れるためです。ですから、町長さんの意見はとても素晴らしいことですし、私たちとしてもすぐに受け入れるべき案件だと考えています」
「……難しい言い回しだけれど、要は仲間を増やすってこと?」
 こくり、とマリーは頷いた。
「どうやら、結論付いたようで助かったよ。実は一人、ちょうどいい航海士が居てね。正確に言えばその卵のような存在かもしれないが……。安心してくれ、きちんと資格を所持しているし、技術も身についている」
 その言葉を言った町長は、目を奥のドアへと向けた。
 同時にその扉は開かれ、奥から誰かが出てきた。
 白いドレスに身を包んだ金髪の少女だった。髪をツインテールにしていて、目はクリッとしている。どこかそわそわした様子で、頬を赤らめていた。
「ほら、挨拶しなさい」
「……エヴァ・アウストノウル。十三歳です。一応、航海士の卵……です」
 少々ぎこちない様子でエヴァは自己紹介を簡単に済ませると、頭を下げた。
「まあ、予想はしているかもしれないが、エヴァは私の娘だ。航海士になりたいとずっと言っていてな、資格を手に入れたところまではいいのだが、ずっとこの町に居るのも正直航海士の資格を取った意味がないと思っている。だから旅をさせようと考えていたのだが……」
「私たちの旅に同行させよう、ということですか?」
「ああ、そういうことだ。安心し給え、身なりこそ貴族のそれだが、はっきり言ってしまえばあれはお転婆で、面白い事があれば何でも興味を持ちたがる。だから適当に流しておけばよい」
「ちょっとお父様! 聞こえていますけれど、その評価はいったいどういうことですの!」
「……おっと、聞こえていたか」
「聞こえていたか、ではありませんわ! わざと、聞こえる場所から話をしたじゃありませんの!」
 かつかつ、と近づいてエヴァは父親の前でそう言った。
 町長は笑みを浮かべて、
「でも、お前はずっと旅に出たかった。そうだろう?」

第三章 22




 それからのことは、彼らが思っていた以上にあっさりと物事が進んでいった。
 町の人々はカスケルが予想していた通り、弱みを握られていたらしい。しかもそれぞれがそれぞれ握られていたことを知らなかった。魔獣は町の雰囲気を険悪にさせることを目的としたらしい。しかしながら、それは完全なる失敗だった。間違いだった。過ちだった。
 あの壁が破壊出来ないことも知っていたし、あの壁の向こうが出口ではないことも知っていた。しかし魔獣には逆らえないしほかの人間にも相談することは出来なかったのだという。
 住人は口々にこう言った。
「あの壁の向こうには……あの魔獣はこう言った。あの壁の向こうには、人間が考えられない範疇の『神秘』がある……と。それについて私は理解していなかったし良く解らなかった。それについて訊こうとしても、魔獣はいつも知らない振りを演じていたのだから」
「神秘……?」
 魔獣たちが一言で端的に述べた『神秘』というワード。単純に考えればただの美しいものや、その例えに使われることが多い。
 だが、その話を聞いている限りだと、そこで使われている神秘は、普段の意味で使われているそれでは無かった。魔獣の言っていた神秘とはいったいどういう意味なのか――それを今、あまり理解しようとは思わない。あの、人間が破壊するのが難しい壁の向こうに何があるのかと興味を抱く人間こそ現れてはいるものの、それには触れてはならない、それのことは考えてはならないという人がほとんどだった。
「……それにしても、どうしてこんなことになってしまったのか。はっきり言ってさっぱりわからない。ただ、一つ言えることは有る」
 町長は、アルスたちと対面して言った。
「魔獣はもう、我々のすぐそばにまで迫っている。かつて勇者が封印した魔王も、もしかしたら再生の時を迎えることを待っているのかもしれない。おそらく、魔獣の言った『神秘』とは、魔王復活に関する何かだったのだろうな……」
 町長は言った。それを聞いて彼らもまた頷いた。同じような意見を持っていたからだ。実際、魔獣はあの場所をかなり大切にしているのだと、あの町の人は頻りに言っていた。だからこそ気になっていた。あの先に何があるのか、ということを。
 気になって仕方がなかったが、結局あの中に何があるのかが判明することは無かった。
「それについては非常に悲しいという一言で片づけられてしまうのだが――、しかし、結果だけを言えば、今までいなくなっていた人々が帰ってきただけではなく、当初の目的通り、灯台の明かりまで戻してしまうとは。君たちにはなんとお礼をすれば……」

第三章 21

「果たしてどうかな?」
 さらに剣戟を振るカスケル。エイミーが補助魔術でカスケルをサポートするが、それでもダメージを与えることはできない。
「ははは! 私の皮膚は鉄とほぼ同じだ! そう簡単に壊すことはできまい!」
「鉄とほぼ同じ?」
 それを聞いたアルスは何かピンと来たようだった。
「マリー、ちょっと耳貸して」
 アルスから言われたので言われた通りにするマリー。
 アルスからの言葉を聞いて、マリーは目を丸くする。
「ええっ? それっていったいどういうこと!」
「いいから、僕の言う通りにして。いいね?」
「うーん……。まあ、アルスがそういうならばいいけれど」
「オーケイ。それじゃ、行くぞ――ッ!」
 そしてアルスは再び小さく言葉を呟く。魔獣を指さす。先ほどと同じように炎が魔獣めがけて繰り出された。
「熱い! ……だがこれだけでは倒すことは出来ないぞ! 何もできないと解って、血迷ったか!」
「そんなことじゃないよ」
 同時に、魔獣に吹雪が襲い掛かった。
「今度は氷魔術か! ……だが、それでも効かないぞ。それで終わりか? ならば今度はこっちから」

 ――ピシッ。

 その音を聞いて、魔獣は思わず言葉を止めた。正確に言えば施行を停止させた、と言ったほうが正しいかもしれない。
 その音が発せられたのは、魔獣の皮膚からだった。その場所を見ると、大きく罅が入っている。
「……ま、まさか!?」
 そのまさか、だった。
 先ほどの音は魔獣の皮膚に罅が入った音だった。そして、魔獣が声を上げたのでさらにそれが広がる。
「お、おい。ま、待てよ! 待つんだよ! ……ま、まさか……炎と氷を間髪入れずに放ったのは!」
「熱した金属を急激に冷やすと、金属がその温度差に耐えきれなくなって自らを破壊してしまう。これは有名な金属に対する知恵だ」
「貴様――――――ッ!」
「いまだ、カスケル!」
「言われなくても、解っているよ」
 カスケルは剣を横に構えていた。走ってくる魔獣を待ち構えるためだ。魔獣は走ってこちらに向かってきている。魔獣も焦っているのだろう。そう簡単に自身の皮膚を破壊されて、使い物にならなくなってしまったのだから。
 だが、焦った結果、弱点を敵に見せつける結果となってしまった。
 そして。
 カスケルはその弱点を――的確に突いた。
 魔獣の身体をカスケルの剣が貫いた。
「ぐ……ふ……!」
「鉄の皮膚の中身は、ただの脂肪か。これなら鉄の皮膚で守る理由も解らなくはないな。脂肪だけならば剣で貫いてしまえばそれで終わりだ。だが、鉄の皮膚があるとするなら、状況は一変する。剣が一切効かなくなるからだ。それにより焦る相手を狙う……」
 魔獣は貫かれ、絶命した。
 倒れ行く魔獣を横目にしながら、カスケルは話を続ける。
「戦法としてはいい方法だったが、ちょいと金属についての知識が足りなかったな。もしその知識を知っていればまだ対策はできたというのに」
 そして、カスケルはその剣を携えていた鞘に仕舞った。

第三章 20

 カスケルの言葉はいかにも理想的であり現実味がない、机上の空論といっても過言ではないものだった。だが、彼は真剣にそう言った。
「それもそうかもしれないわね……。ここでとやかく言ってもなにも変わらない。まずは闘わないといけない。戦ってどうなるか解らないけれど……、まずは良い結末を迎えることだけを考えないと」
 エイミーはそう言って、肩を上下させる。どうやら彼女なりの気合の入れ方らしい。それを見てほかの人たちも奮い立たせるように肩を上下させた。別に普段することでは無いのだが、あまり強い敵と戦ったことが無いので、願掛けというものだろう。
 そして彼らは動き出す。
 塔の頂上にいる魔獣を倒しに行くために。
 そして岩山に囲まれた町にいる住民を救うために。

 ◇◇◇

「……まさかまたここまで辿り着くとは思いもしなかったぞ」
 そして、頂上。
 通路はダイレクトに塔の一階と接続されていた。敵は居たがそれほど強くなくあっさりと頂上へ到着したのだった。
「あなたの送った使い魔が通路の入り口を教えてくれたものでね。それで俺たちはここまで到着したということですよ」
 そう言ったのはアルスだった。すでに剣を構えて臨戦態勢にある。
 アルスだけではない。カスケル、マリー、エイミー。全員がそれぞれの武器を構え臨戦態勢にある。それを見て魔獣は笑みを浮かべる。
「どうやら……痛めつけないと解らないようだな。圧倒的戦力差、というものを!」
「そりゃそうでしょう。一回目は戦わないで、そのまま町に落とされたのだから。戦わないでああいう卑怯な手を使うなんてほんと恥と思いなさい」
 さらに、マリーが火に油を注ぐ発言をする。
 魔獣の鼻息が荒くなっていく。怒りのゲージが高まっている証拠と言えるだろう。
「よかろう。ならば私直々戦ってあげようではないか……! 後悔しても知らないぞ、お前たちがたとえ死ぬ前に後悔することになろうとも、私は全力でお前たちを殺す!!」
 その言葉を皮切りに戦闘が開始された。
 刹那、アルスは小さくぶつぶつと何かを呟いた。つぶやきを終えて、そのまま魔獣を指さす。それと同時にアルスの身体の前から炎が放たれて魔獣に激突した。魔獣は熱がる様子こそ見せたが、たいしたダメージは与えていないようだった。
 次にカスケルがその攻撃で出た『ラグ』を狙って剣で斬りかかった。右腕を狙ったがその皮膚は固く、とてもじゃないが傷がつくようなものではなかった。
「ははは! そう簡単に私の皮膚にダメージを与えることが出来るか! 私の皮膚はほかの魔獣と比べると特殊で、硬度が何倍もある。そんな簡単に剣ではダメージを与えられまい!」

第三章 19

 中は思った以上に人工物でできた通路となっていた。洞窟のように岩肌が丸出しになっているのではなく、通路全体がぴったり長方形になるよう削り取られている。
「……いったい誰がこのようなことをしたんだ?」
「決まっているでしょう? 魔獣よ、魔獣。魔獣がこの道を綺麗にしたのよ」
「けれど、それってする必要があるのか?」
 アルスの問いにマリーは首を傾げた。
「何をおかしなことを言っているのよ。そんなこと普通に考えられる話じゃない。魔獣がこの道を綺麗にしたのは――」
 そこまで言って彼女は施行を停止させた。
 そして、今度はマリーがアルスたちに問いかける。
「……あれ? どうしてこの道って、こんなに綺麗に仕上げる必要があるのかしら? 確かに魔獣だけ通る道ならばここまで綺麗な形にしておく必要なんてない。もっとカモフラージュしておいてもいいはずなのに」
 その問いに答えられる人間は、誰もいなかった。
 だからマリーはそのまま歩き出す。
「まあ、別に突き止める話じゃないかもしれないわね。魔獣がただ気まぐれで整えただけかもしれないし。仮にそうだとすれば、今まで考えた時間が無駄になる。だから、今の話はこれで終わり」
「ま、そうだな。変なことを考えるよりも魔獣との戦いに集中していたほうがいい。それはマリーの言う通りだ」
 カスケルの言葉に頷く一同。
「……とにかくまずは大急ぎでいかないといけない。特に問題はないだろうが……これ以上、あの場所に人を置いておくことは出来ない」
「助けることが出来るかどうかは、私たちにかかっているということよね」
「ああ、そうだ。俺たちがここをどう乗り切るかですべてが決まる。相手を倒すことが出来れば俺たちの勝利、町の人々ももともといた場所へ戻ることが出来る。けれど、もし倒すことが出来なかったら……」
「今度こそ一生、あの町から脱出することは出来ないでしょうね……」
 こくり、とカスケルは頷いた。
 一歩前に踏み出して、歩み始めるカスケル。彼はすらすらと何かを見ているように言葉を述べていく。
「しかしまだ間に合う。焦ることはない。それに相手はまだこちらがこの通路を伝って塔へ戻っていることを知らないだろう。それを狙う。相手が油断している、そのタイミングでこちらが攻撃をする……というわけだ」
「成る程、しかしそううまくいくものかね? 実際相手はかなり強いものだと考えられる。それに比べて我々は魔獣との戦いを暫くしていなかった。それを考えると、やはりハンデということもあると思うが」
「まあ、それはあまり考えないようにしよう。まだ倒せないと決まったわけじゃない。仮に相手が強力であったとしても、少しずつ力を削り取っていけば、いつか勝機は見えてくるはずだ。だから、どんな敵であっても決してあきらめない。それが俺の理想であり、矜持だ」

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