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 oddⅤ -呪われし花嫁と天空城の秘宝-

oddⅤ -呪われし花嫁と天空城の秘宝-

最新の更新分が先頭に表示されます。 最終更新16年1月24日

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第五章 7

「賢者の末裔にはきちんとした薬草を献上して、自分たちは副作用のある薬草を使っている……そんなことで問題はないのか? 賢者の末裔に薬草を与えなくてよい、という結論には至らなかったのか?」
「至りませんでしたね。私たちはずっと昔から賢者とともに生きてきました。賢者が市でその子供が住むようになってからも、私たちと賢者の末裔の関係は変わりませんでした」
「でも話を聞いている限りだと、賢者の末裔は村人にリターンをしていないように見えるけれど? 実際問題、賢者の末裔に薬草を献上するなら何か見返りにあると思うのだが……」
「予言ですよ」
「は?」
 端的に述べられたその結論を聞いて、アルスは目を丸くする。
 ローラはアルスの反応を予想していたのか、一度頷いて話を続ける。
「まあ、そういう反応を示すのが普通でしょうね。……でも、私たちにとってはそれが一番の見返りに相応しいものなのです。賢者の末裔はその力が賢者から代々引き継がれており、予言をすることが出来ます。そしてそれを私たちに伝えてくれるのです。それが、私たちへの見返り」
「……予言とは、具体的なものばかりなのか? 例えばいつ雨が降るだとか……」
「具体的なものばかりですし、私たちに関係のあることばかりですよ。例えば城で何かあるという未来を見たとしても、私たちに直接関係が無ければ教えてくれることはありません。所詮私たちはこの村という閉ざされたコミュニティに居るだけに過ぎませんから」
「閉ざされたコミュニティ、ね……」
 アルスは話を聞きながら、前をずっと見つめていた。
 そして――目の前に光が見えてきた。
「あれは――!」
「出口ですね、あそこから出ると山頂。賢者の末裔が住む小屋があるはずです」
 そしてアルスたちは洞窟の出口から外へと出た。

 ◇◇◇

 出口の外の目の前には小さな小屋があった。
「これが……賢者の末裔が住むという家?」
 その小屋はあまりにもボロボロだった。出来合いの板と金属で素人が作ったような家は、人が住んでいるとは思えない。窓も割れていれば、扉の立て付けも古いように見える。それだけを見れば、まさに廃墟としか思えない。
 廃墟のような小屋を見ながら、アルスは呟く。
「……ここに、ほんとうに賢者の末裔が住んでいるのか?」
「ええ。ここに住んでいますよ。賢者の末裔は、この家をとても好んでいます。ですから、ここを作り直そうという計画が幾度となく上がったとしても、それを了承してくれなかったのですよ。……仕方ないといえば仕方ないのですが、他人から見ればそれはほんとうのことなのかと疑われてしまいますが」
 ローラの言うことも尤もだった。実際、その話を聞いてほんとうだと信じられる人間がどれほど居ようか。アルスたちも実際半信半疑でその話を聞いているので、彼らも信じていないといえば信じていないのだが。

第五章 6

 洞窟の中は特筆することもなく、岩肌ばかりが続いていた。入り組んでいるとはいえ、村人がサポートとしているため安心して洞窟を進むことが出来る。道中魔獣もいたが、今のアルスたちには恐るるに足らず、簡単に魔獣を倒していった。
 簡単な任務だ――彼はそう思った。実際、簡単な任務だったことは事実だ。これで洞窟の魔獣がもう少し強いものだったら話が違ってくるのかもしれないが、そんなことは無かった。だからこそ、彼らは少し肩透かしをくらった気分になっていた。
「……これが洞窟の中か? 思ったより強い魔獣もいないし、逆にどうしてこの洞窟に苦労しているのかが理解できないぞ……」
「村の人たちは、あまり戦うことを好みません。ですからずっとあの村にいたこともありますし、現にほとんど村の外から出ない私たちにとって、この程度の魔獣でも苦労してしまいます。倒せずに殺される村人だって出てきていますから……」
 ローラの言葉に成る程、と頷くアルス。
「しかしそうであったにしても、まったく外に出ないことはないんじゃないか? だって道具や武器防具はどうするんだ?」
「それは月に一度やってくる行商の人から購入しているものです。ですから品揃えはあまりよくありません。だって月一度の行商の人が来るまでの間、その在庫で道具屋と武器防具屋はやっていかないといけないのですから」
「……それほど需要が少ない、ってことか?」
「そうなりますね。外に出ないものですから薬草なんてまず使いませんから」
「薬草を使わない? ……病気とかでも使わない、ということか」
「この村にはメディ草という特殊な葉っぱを栽培できるんですよ。そしてそれがこの村でいうところの『薬草』ということになっているということです。メディ草の効果は薬草よりも高いですし、便利といえば便利ですよ。ただ副作用があるといえばあるのですが……」
「副作用?」
 穏やかではないワードを聞いて、アルスは反芻した。
「……使いすぎると幻覚が見えてしまうというものです。あくまでも、使用量と頻度さえ間違えなければ何の問題もないのですが」
「幻覚、ね……。しかしそれでもメディ草を使うのは、やはり薬草の絶対数が少ないからか?」
「それもありますが、賢者の末裔へ献上する分も考えるとあまり私たちでは使わないほうがいいというのが実情です。賢者の末裔はメディ草を嫌っています。確かに普通に考えれば幻覚が見える草なんて使いたがりませんよね。だから純正の薬草を使うと考えられていますし、私たちはそれを容易に使うことが出来ないのでメディ草をなるべく使うようにしている――ということです」

第五章 5



 それから、村人がやってくるまで約一時間かかった。理由は彼女にも日課があり、それをこなさない限り外に出ることは出来ないためであった。
 村人――と言っても少女だった。まだ小さい少女は、アルスたちを見て礼儀正しく頭を下げた。
「よろしくお願いします。私の名前はローラと言います。私はあなたたちを賢者の末裔が住んでいる場所へとご案内します」
「ああ、別にそこまで畏まらなくていいよ。こちらとしては、賢者の末裔に会うことが出来ればいいから」
「……どうやら、共通の目的があるようで。まあ、いいでしょう。賢者の末裔はなんでも知っていると言います。百年前に起きた『大断裂』から、天空に眠る秘宝の場所まで」
 大断裂。
 百年前に起きた、世界と世界の断裂。
 それによって今の世界は、大国二つによる統治へと、統合されてしまうことになったのだった。かつては小国が林立していたが、それも昔の話だ。それを知っている人間はあまりいないし、知っていても文献が消失しているのでそれが嘘かほんとうか解らない。
「……それじゃ、向かうことにしようか」
 洞窟の前で、アルスはそう言った。薬草等の準備も完璧であるし、武器防具も揃えてある。
「はい、お願いします」
 ローラは彼らの一番後ろに立っていた。そして、彼女はそう言うと大きく頷く。
 彼女が背中に携えているのは木でできた槍だった。しかしながら、それはアルスたちが見た限りでは気休めに過ぎず、そんなものが実際に使えるかどうかと言われると案外微妙なところだと考えていた。
 そもそも、アルスたちが先頭を切っていくということは、即ち戦闘はアルスたちが行うということなので、ローラがわざわざ攻撃する必要などないわけである。彼女に何かあったら、文句を言われるのはアルスたちなのだから。
「あー……一応言っておくが、武器は使わなくていいし戦闘の時は参戦しなくていいからな? 何かあったら怒られるのは俺たちだ。だから、あんたはずっと後ろをついてきてくれればいい。あくまでも俺たちはあんたの護衛だ。それを忘れないでいただきたい」
 カスケルの言葉にローラは小さく頷いた。
「ちょっと、カスケル。今の言い方はないんじゃない?」
 マリーはそれを聞いて違和感を抱いたのか、カスケルを問い詰めた。
 カスケルは小さく溜息を吐くだけで、彼女の言葉には答えない。
「ごめんね、ローラちゃん。この人は少し不器用なだけだから。だから怯えなくていいのよ? 私たちを頼ってくれれば、それだけでいいの」
 すかさずマリーはカスケルの言動をフォローする。
 ローラはそれを聞いて、幾回か頷いた。どうやら言動はフォローできたようだ、とマリーが思うと深い溜息を吐いた。

第五章 4

「何か……ごめんね。アルス。私、あなたのこと疑ってた。もしかしたら本来の目的を忘れているんじゃないか、って思った」
「そんな。まさか? そんなことするわけがないじゃないか。僕はずっと、君を元に戻すことしか考えていないよ。それは理解してほしい。そして、君を元の姿に戻さないと、僕は一生後悔する」
「ありがとう、アルス……。ごめんなさい、ほんとうに」
「……ところで、どうするつもりだ。アルス? このままあの老人の言ったことを実行するつもりか」
「カスケル、君はダメだというのか?」
「ああ。現状では有益とは思えないね。はっきり言って無駄足になりかねない。賢者の末裔が住んでいるとは言っても、しょせん『末裔』に過ぎない。その末裔にいくら話を聞こうが、結局憶測に過ぎない話を聞くだけに留まってしまうと思う。だったらさっさと断って先に進んだほうがいい」
「そうは言うがな、結局僕たちは情報をほとんど得ていない状態にあるわけだよ。だからまずはどんな細かいものもでも情報を得る必要がある。……そのために、僕はあれを了承した。願ってもいないチャンスだよ。賢者の末裔だ。仮に本人から情報を得られないにせよ、過去の知識が蓄えられた書物が一冊でもあれば、それが可能性に繋がる」
 アルスの言葉を聞いて、カスケルは深いため息を吐く。
 なんとなく予想出来ていたことだったかもしれない。アルスは一度自分で決めたことはまっすぐやり抜くという思いがとても強く、常にそれを実践している。普通に考えれば素晴らしいことなのかもしれないが、チームワークたる旅の状況によってはそれは最悪のことだと言える。
 要するに他人の言うことを聞かず、相手も引っ張っていく形でその方向にもっていくということなのだから。仮にその方向が全体的に悪い方向であっても、自身が良いと思えばそれまでだ。意見を聞くことは有っても、それを最終的に受け入れるかは彼自身の判断によるのだから。
「……解った。解ったよ。とにかく、賢者の末裔については引き受けることで考えよう」
 だからカスケルは折れることでこのやり取りを丸く収めることにした。別に諦めたわけではない。何かあったときは自分が進路を修正せねばならない――そう思ったからだろう。いずれにせよ、アルスの意思を半分信じていないことからの彼の意見でもあるのだが。
 アルス、カスケル、マリーが賢者の末裔に会うことを了承し、残りの二人もまた了承した。そもそも彼女たちにとって別段アルスたちの意見に反論することもなく、基本はアルスたちの意見に従うと言ってくれたからである。それが功を奏し、あとはあっという間に『老人の頼みを受け入れる』という意見がまとまった。

第五章 3

「でも……私たちは何をすればいいの? 賢者の末裔に会って、ただ体調を確認すればいいだけ?」
 マリーの言葉に老人は頷く。
「それで十分だ。我々はあくまでも賢者の末裔に過ぎた干渉はしない。あくまでも末裔を見守るだけに過ぎない。だからこそ、我々と賢者の末裔はずっと同じような距離で関係し続けていられるのかもしれないが」
「賢者の末裔は、この山の山頂に?」
「ああ。そうだ。山の頂に小さな掘っ立て小屋がある。賢者の末裔はそこで一人暮らしている。畑や井戸があるはずだから、生活痕で解るはずだ。あと……これも渡してはもらえないだろうか?」
 そう言って老人は麻袋を一つアルスに差し出した。
「これは?」
「薬草だ。……念のため伝えておくが体調が悪いわけではない。だが、あの山は薬草が育つ環境ではなく、薬草はどうして自分で作ることが出来ない。だから、ある一定のペースで薬草を届けてやらねばならない。その間に体調を崩してしまったら薬草が無かった場合そこまでだからな」
「成る程、了解しました」
 アルスはそれを聞いて頷くと、麻袋を受け取った。
「……解った。そういわれてしまうと、簡単に断ることも出来ないしな。それについては了解した。それで? あの山って外側を登っていけばいいのか? それとも洞窟か何かで繋がっているということは?」
「内側に洞窟が広がっている。しかしその洞窟は村の者でさえようやく正しいルートを通ることが出来る程、とてつもなく入り組んでいる。しかしながらその洞窟を使わねば山頂へと向かうことが出来ない。だから、村の人間を一人つけようと思う。それで問題ないか?」
「僕たちとしては別に。だが、魔獣がうようよと居るのでしょう? そういうところを戦った経験の薄い人間とともに居ることは、はっきり言ってハンデとなると思いますが」
「それは重々承知している。だが、こうするしか我々には方法がないのだ」
 老人は重々しい表情で、アルスたちにそう言った。
 アルスはそれを聞いてただ頷くことしか出来なかった。

 ◇◇◇

「ねえ、アルス。いいの? そんな安請け合いしちゃって」
 マリーは老人が部屋を後にしてからアルスに訊ねた。
 アルスはマリーのほうを向いて、笑みを浮かべる。
「大丈夫だよ。それに、通路の件も村人がついてきてくれるという話だ。だったら何の問題もない。賢者の末裔だというのなら天空城や知恵の木の実についても何か知っているかもしれないしな」
「……もしかして、それが目的?」
「あくまでサブだけどね」
 アルスの言葉を聞いてマリーは微笑む。
 彼女が心配していたのは、アルスが老人の願いを聞き遂げたときに、本来の目的を忘れているのではないか――と思ったことである。もしそうであるならば、できる限り速やかに修正したほうがいいと思った。
 だが、そうではなかった。彼はきちんとマリーのことも覚えていたし、それをできるように考えを巡らせていたのだった。

第五章 2

「申し訳ない。君たちの居る場所を教えていただいた。なにせこの村にいる人間はみな魔獣と戦った経験が薄いものでね……」
「魔獣と戦った経験が薄い……何か僕たちに魔獣に関連する頼み事がある、と?」
 アルスの言葉に老人は眉を顰める。
「察しがいいな、少年。そうじゃ、そうなのだよ。実はのう……この山は賢者がかつて住んでいた山として知られていて、神が住むとも言われていた。だから、賢者と神をまつるために我々はずっとこの村に住み続けておる。賢者の末裔は今でも山の頂上に小屋を設けて住んで居る。そして賢者の末裔には月に一度我々から一人見に行く役目を持つ人間が行くわけだったのだが……」
「だが……?」
 アルスの言葉に、老人は首を横に振った。
「なぜかは知らぬが、最近魔獣がめっきり強くなってきてのう。簡単に我々が行くことが出来なくなってしまったというのだよ。かつてはこのあたりはあまり魔獣が出てこなかったから、やり過ごすか賢者から与えられた御守りを持ち歩いていれば何の問題もなかったはずなのだが……しかしそれも効かなくなってしまった。とはいえ、村の人間が賢者の末裔の無事を確認しなければ何の意味もない。だから我々は考えていたのだ、この村へやってくる旅人にそれをお願いできないか……とな」
「賢者の末裔って、人のいる場所を嫌っているというのか?」
 アルスと老人の会話にカスケルが横やりを入れる。
 老人はそちらのほうを向いて、
「我々だって何度も山を下りて村で暮らさないか、と言った。だが、それは無駄だった。賢者の血を引き継ぐ者はその山で一生を終えていくのが真理であると言っていた。我々にはそれが理解できなかったが……賢者には賢者の考えがあるのだろう。我々にはそれはきっと、永遠に理解できないものだろう」
「そうだとしても……それでいいの? 確かに賢者は人の世をあまり好まない。世界が創造された原初の時代に生まれし神々を讃えているとは聞いたことがあるけれど、それはあくまでも伝説に過ぎない。もうこんな時代じゃ、原初の時代なんて誰も信じていないし誰も信じ込んでいないわよ」
「それは人間全般の都合だ。勝手に聖霊教会という宗教が生まれ、そいつらが原初の時代など無いと断言してしまい、あろうことか大多数の人間がそれを信じたということが原因だ。我々は原初の時代はあると信じている。そして賢者の末裔はその時を、待っているのだと――」
「その時を――待っている?」
 エイミーの言葉に老人は頷いた。
「前に賢者の末裔に話を聞いたことがある。なぜここで一生を終えようとしているのか、ということについて。そして賢者の末裔はこう言った。いつか訪れるであろう世界の終末に備えている、と。そして終末を食い止めようとする勇者のために、待ち続けているのだ――と。我々はそれを聞いてもまったく理解できなかったから、ただそこで終わってしまった話になるがね」

第五章 1




 切り立った山の中腹に位置するトアの村はメルフェ大聖堂から歩いて半日以上かかる距離にある。とても小さな村だった。住民は少なく、村自体も小さなものであったが、それを補うかのように優しい住民ばかりだった。
「トアの村……って地図にも書かれていないのよね。地図って完璧じゃないのね。というか……どれくらいかかるのかしら、王都まではまた半日以上かかるかもしれないというのに、ずっと徒歩を続けていくというのは……」
「確かに。はっきり言って女性には厳しい道程だ。……だからといって徒歩以外の方法があるわけでも無いからなぁ。残念ながら、その方法にせざるを得ない。もしこの村で何らかの代替手段を見つけることが出来れば話は別だが……」
「出来ることなら、それが見つかることを祈るしかないわね。もう疲れたわよ……。このままだと城に着く前にみんな体力が尽きちゃうわ。この広大な世界で倒れこんでしまったら、それこそのたれ死んでしまう。それだけは避けておきたいわよね。だって、嫌だし」
「確かにそうだな。……でも、見た感じこの村はただの農村にしか見えない。そうだろう? 実際、僕はこの村にそういうものがあるとは思っていないし……」
「そうかもしれないけど……」
 エイミーの言葉はそこで終わった。
 しかしながらエイミーの発言ももっともだった。彼らがトアの村に到着するまでずっと山を登っていたわけだが、その山がかなり急勾配であった。その勾配で彼らの足の疲労はピークに達していたが、『中腹』と言った通りまだ山を登る必要が出てくるので、エイミーが不安がる理由も案外仕方ないのかもしれない。
「とはいえ、それを簡単に乗り切る方法なんてないぞ。この村に何か乗り物があるとは思えないし、いい武器防具も見つからない。村人もこの村は城へ向かうための休憩スポットとまで言っていたからな。だから、ここはもう休みにして、明日また前へ進むしかない」
「それはそうだけれど……」
 エイミーの言葉は途切れた。
 そしてアルスたちは宿屋へと向かい、今日の疲れを癒すこととした。

 ◇◇◇

 次の日の朝。
 アルスたちはドアをノックする音で目を覚ました。
「なんだ、朝から騒々しいな……」
 アルスは眼を擦りつつ、ドアを開けた。
「失礼。旅人の部屋で間違いなかったかな?」
 ドアの向こうにいたのは背の高い老人だった。口ひげとあごひげを生やしている老人は、笑みを浮かべてアルスを見つめていた。
 アルスは突然のことに何を言っているのか一瞬理解できなかったが、すぐにそれを理解したのち、頷いた。
 老人は失礼する、と一言だけ言って彼らの部屋へと入っていった。

第四章 26

「……ああ。ありがとう。だが、ここで弱音を吐くわけにはいかないんだ。ここで頑張らないと、まだおいていかれる。だからここで何とか追い詰めなければならない。あいつを、あの魔術師を」
 アルスの強い意志を見て、エイミーとエヴァは惹きつけられていくものがあった。実際、アルスの言った話については理解しにくいところもあるが、そうであってもアルスの言葉には強い意志があった。それは理解してほしいという以上に伝わるものだった。
 だからエイミーは頷いた。
 彼の力になろうと思った。
 彼とともに旅に出ようと思った。
「ありがとう、頷いてくれて。ありがとう。それだけでいい。それだけで救われる。それだけで助かるよ」
 アルスは泣くことこそしなかったが、その目はどこか潤んでいた。泣く一歩手前まで来ていたといえばいいだろうか。
「だから、ともに頑張ろう。ともに戦おう。……いつの日か、マリーの呪いが解ける日が来ることを信じて」
 それを聞いて、アルスは大きく何度も頷いた。

 ◇◇◇

 次の日は晴天だった。
 アルスは大きく伸びをして次に目指す方向を見た。先に見える道は、切り立った山のほうへと続いている。
「……この先にあるのは小さな村だ。そしてさらに先に行けば大きな城が見えてくる。俺も詳しくは地図を見ていなかったから解らなかったが、いったいどこだと思う? その城は」
「全然わからないな、カスケル。もったいぶらないで教えてくれないか」
「ベスティリア城だよ。ベスティリア王国の首都である城だ」
 一拍おいてカスケルは言った。
 それを聞いてアルスは目を丸くする。
「……ベスティリア城ってこんな近い場所にあったのか? そいつは初耳だな。まあいい、とにかくそこへ向かうことにしよう。ベスティリア城ほどの規模の大きい城ならそれなりに城下町も形成されているはず。魔術師や天空城についての情報もきっとある程度収集できるはずだから……」
「さあ、行きましょう。アルス」
 マリーはアルスの隣に立って、そう言った。
 アルスもマリーの言葉を聞いて小さく頷くと、一歩を踏み出した。
 その先に何があるのか、それはまだ彼らの知るところではない。
 次の目的地は――世界を二分する巨大王国のひとつ、ベスティリア王国の首都があるベスティリア城!
 彼らの旅はまだまだ始まったばかりである。アルスはそれを何となくそう思うのだった。

第四章 25

「……今、それについて語ることではないだろう?」
 カスケルの言葉に、アルスは小さく頷いた。
「それもそうだ。カスケルの言う通り、それではない。話の論点をすり替えちゃいけない。……問題はその魔術師がどこへ向かったか、ということだ。この大陸で途絶えているということはこの大陸で何かを仕出かそうとしているのかもしれない。もしそうであるとするなら……それを阻止しないといけない。もちろん、マリーの呪いを解くことも目的にあるが、もうこれ以上マリーのように被害者を出したくない」
「アルス……」
 マリーはアルスの言葉を聞いて、彼のほうを向いた。
 彼は真剣かつ冷静に、そのことを告げていた。
 そしてそれは――マリーも一緒だった。
「その思いは、私も変わりませんよ。アルス」
 マリーはそう言って、頷く。
「マリー……ありがとう。絶対に、君を何とかして見せる……!」
「ねえ、もう一つ質問いいかな?」
 エイミーが右手を挙げて言った。
「なんだ?」
 答えたアルスの言葉を聞いて、咳払いを一つ。
「もしかしたら、だと思うんだけどさ……アルスとマリーってどういう関係なの? たぶん、ただの仲間ってだけじゃないよね。きっとそれ以上の何かがあるよね。まあ、薄々解ることではあるけれど、一応念のため、にね」
「……それは、」
 アルスは一瞬言葉を澱ませた。
「アルス、別に隠すことでもないだろ。いいんじゃないか? 言っても。それについては別に俺も否定しないし、もっと開けっ広げに言っていいことだと思うぜ。アルス、むしろお前が慎重過ぎるだけのことなんだからさ」
「……そうか。まあ、確かにそうだよな。不安に、疑問に思っている人もいることだし、ここいらできちんと説明したほうがいいかもしれないな。な、マリー」
 そう言ってアルスはマリーの肩を彼のほうに寄せた。
 マリーは少し顔を赤らめながらも拒否することなく受け入れた。
「薄々気付いていることとは思うけれど、僕とマリーは夫婦だ。いや、正確に言えばこれから夫婦の契りを迎え、正式になるはずだった……とでも言えばいいかな。それを邪魔された。あの魔術師にね」
「……花嫁、ってこと?」
 エイミーの言葉に頷くマリー。
「まあ、そういうことだ。別に隠していたつもりはなかったのだけれど、今まで言えなくて申し訳なかった。話はこれで終わりだ。何か質問があるならば、今のうちに受け付けるけれど」
「どうしてマリーが狙われたのか……というのは解る? 心当たりなんて……まあ、無いかもしれないけれど」
「無い……な」
 アルスは少し考えて、その結論を導き出す。
 エイミーはそれを見て、目を瞑り頷いた。
「……そう。ならいいわ。ありがとう、きっと話すのが辛かったでしょう? 辛かったことを話すのって大変よね。解るわよ、私だってそういう経験もあったし、相手がそういう経験をしていることもほとんどだったから。特に教会に居た時は良くあった。毎日のようにあったわ。だから、すごく大変だったもの」

第四章 24

「天空城の……宝?」
 エイミーはアルスの言葉を反芻する。
 それを聞いたアルスは頷いて、
「そうだ。だが、実際その宝は何であるか知らなかった。……最終的に僕たちは独自に調べ上げて、天空城にはある樹が生えていることを知った。その樹木には黄金に輝く林檎が生えているという。その林檎は……『知恵の木の実』というらしい」
「知恵の……木の実。大聖堂でステンドグラスに描かれていたという、あれか?」
 こくり、と頷くアルス。
「……つまり、知恵の木の実を手に入れればマリーの呪いは解けると?」
 エイミーの質問にカスケルは首を横に振った。
「そこまで単純な問題ならばいいんだけどな。問題の知恵の木の実が見つからないわけだ。普通に考えれば地上に存在するはずがない。天空城……はるか大空に浮かんでいる城に行く方法なんて、そう簡単に見つからないだろ?」
「確かに。そこへ登れる、と確信を持っているほうがはっきり言っておかしいからな」
「だから、どうすればいいかと考えたとき……その呪いをかけた術師を追いかけるしかない、そう考えるに至ったわけだ。どんな魔術でもその魔術は魔術師の生存に起因する。即ち魔術師が死ねばその魔術師が永続的にかけた魔術も停止するというわけだ。だからそいつを殺すことにした。そして呪いを解いてもらうことにした」
 アルスの説明は若干順序が違っているように見えるが、それはひとまずすっ飛ばすことにした。
「呪いを解いてもらうまで時間はかかるだろう。現に僕たちはその魔術師の道筋を辿っているわけだから。だが、残念ながらここで途絶えている」
「……あの、一応聞いておくがなぜその道筋が解るんだ? それについて、一つ聞いておかないと理解できないのだが」
「簡単だ。魔石を使っている」
 そう言ってアルスは首にかけているペンダントを取り出した。
 そのペンダントは紫色に鈍く光る石がついていた。そしてそれが魔石であることはエイミーが見れば一目瞭然だった。
「魔石は魔術を使った痕跡があるとその光を放つ。光が強ければ強いほど直近のものとなる。正確に言えば、共鳴というやつかな。魔力と魔石に込められた魔力との共鳴。それが起きている場所へと向かっている。しかし、残念ながらそれもここで尽きてしまったという感じだな……」
 アルスは鈍い光を湛えるだけの魔石を見つめてそう言った。
「それが……すべて?」
「ああ、そうだ。これが僕たちの旅の理由。旅の目的だよ。ちなみにカスケルはマリーの居た場所で兵士をしていた。護衛、ではないけれどそれに近い形かな。だから一緒についてきている。別に僕はついてこなくていいとは言ったけれどね」
「ひどい話だな。言っただろ、俺は俺の目的があって旅をしているんだ、って。なぜあいつが呪いをかけたのか、そしてなぜ俺だけ呪いを回避できたのか。それが気になっているから旅をしているお前たちについているのであって」
「ああ、ああ。そうだったな」
 アルスは適当に相槌を打つ。こういうことがよくあるのだろう。あるいは付き合いが長いからこのように適当なふるまいが出来るのかもしれない。
「……まあ、カスケルの話には一部語弊がある。正確には僕も呪いを回避した。正確にはその魔術師に情けをかけられた、とでもいえばいいだろうか。ほんとう、くだらない話だよ。もしあの時の自分が目の前に居たら一発ぶん殴っている」

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