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 oddⅤ -呪われし花嫁と天空城の秘宝-

oddⅤ -呪われし花嫁と天空城の秘宝-

最新の更新分が先頭に表示されます。 最終更新16年1月24日

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第六章 5

「そう。もともとペンダントはこの城にあったもの。そしてそれが大聖堂に無かったことを知って、ここまでやってきたとすれば一番に危ないのは……」
「この城の、王――!」
「そう。でもきっと、魔術師はすぐに凶行に走らないはず」
「……なぜ?」
 アルスの問いにマリーは小さく溜息を吐いた。
「だって、普通に考えれば解る話でしょう? 今この国は戦争をしようとしている。強い冒険者をどんどん集めているというのに、この状況で王を狙うことはリスクが高すぎる。私だったら、絶対にしない」
「……まあ、普通に考えればマリーの言う通りであることは間違いないな。些かこの状況が『出来過ぎた』ようにも見えなくはないが」
「それってどういうこと?」
「だって、考えてみれば解る話よ。この城に来たら戦争の準備が着実に進められていて、そのために強い冒険者が集められていて、そこにその魔術師はペンダントを求めにやってきた? まるで最初からこの混乱を理解していたような――そんな雰囲気を感じ取ることが出来るけれど」
「まさか。いくらなんでも一人の魔術師が戦争まで生み出せるはずがない」
「戦争自体を生み出すことは無理でしょうね。……でも、そのきっかけは作ることが出来ると思うわよ」
「……きっかけ?」
「例えばそのペンダントを奪って、それをムロクスがやった……そう偽ることが出来れば、王は簡単に信じるでしょうね。実際、今はそう間違えてもおかしくない程緊張の糸が張りつめている状況なのですから」
 マリーの言葉を聞いて、アルスは頷く。
「だとすれば猶更急いだほうがいいな。王はきっとそこまで理解していないことだろうし、あまりあの大聖堂であったことは世間に知れ渡ってもいないだろう。そう考えると、先ずはそれをどうにかして食い止める必要がある。そうしないと、王に危険が及ぶ可能性だってある。もう俺たちのせいで……人が死ぬのは見たくない」
「きっとそういうと思っていたよ。まあ、私だってその思いは一緒。まずはその魔術師を倒すことが先決だけれど……そのせいで何か起きるのも癪だからね」
 どうやら満場一致となったようだ。アルスはそう思って、一路城へと向かうことになった。その先に何があるのか――それは彼らの知ることでは無いのかもしれない。

 ◇◇◇

 城に入って応接室に通されると、そこにはすでに大臣と思われる顎鬚を蓄えた禿げ頭の老人が腰掛けていた。大臣と思われる老人は自分より偉い立場の人間が居ないためか横柄な態度をとっていた。

第六章 4

「……そう。一応二人ともこれの価値については覚えているのね。それは何より。もし覚えていないようだったら頭をひっぱたいてもう一度一から話をするところだったわよ」
「それは問題ないよ。僕たちは何年間あの場所にいたと思っている? そりゃ、兵士だったカスケルは僕たちよりいた期間は短かったかもしれないけれど」
「そうね。それは愚問だったわね。となると……」
「話を置いていかないでくれよ、これ以上話をややこしい方向にもっていくつもりか? マリー」
 もはや話に置いて行かれているエヴァと、今三人に質問をしたエイミー。
 二人にはこのペンダントについて説明をする必要があるようだった。
 マリーは二人のほうを向くため、踵を返す。
「二人とも、ちょっといいかしら?」
「ええ、いいわよ。いつでも準備はオーケイ」
「……え? ええ、ああ、はい。大丈夫です。問題ありません」
 エヴァはマリーに突然そう言われて驚いたように地図から目線を離す。それでもまだ地図はぎゅっと堅く手で握ったままなのだが。
 二人が話を聞く態勢になったところで、マリーは話を始めた。
「それじゃ、話を始めるわね。このペンダントはある大聖堂のお宝なのよ。では、なぜ私たちがそれを持っているのか? それは簡単なこと。私たちがその大聖堂に住んでいたからなの。一人のおじいさん……時折やってくる人からは『僧侶』、私たちは『おじいさん』と呼んでいたわ、そのおじいさんと私たち、それに兵士が数名で暮らしていた。小さなコミュニティだったけれど、それでも楽しい生活だった。私たちと兵士であったカスケルはあまり出会う機会は無かったけれど、それでもたまに一緒に食事を取ることもあったから、お互いの存在は知っていた」
 彼女の言葉に相槌を打つエイミーとエヴァ。
「ある日おじいさんは私たちにその宝について話してくれた。そのペンダントは不思議な力を秘めているものだ、と。かつて王族からいただいたそのペンダントは、聖なる木の実の力を秘めているから魔の力を受け付けないと言っていた。その時はまだ魔獣なんてこの時ほどうようよと居なかったし、私たちは、私はそれについてあまり理解していなかった。……そして、あの日が訪れた。忘れもしない、あの日。魔術師がガラムドさまの封印を解いて、世界に魔獣を解き放った。どうやらその時にあいつはペンダントを求めていたらしいの。王の城には、それを探しに行くためなんじゃないか――私はずっとそう思っていた。そして、魔術師の魔力がここで消えた。それを考えると、すべてがうまくいく。魔術師はここで、このペンダントを探している」
「ええと……つまり、魔術師はそのペンダントを探しにあなたたちの大聖堂へやってきた、ということ?」

第六章 3

「これからどうするの?」
 情報提供してくれた男と別れたアルスたちはストリートを目的もなく歩いていた。
「あの男の人も言っていただろ。まずは城へ向かう。ムロクスとの戦争を予定しているとするならば、戦力を募集していると言っていた。ならば、そこに向かうのがアリだ。強い人間が揃っているならば、情報もそろっている可能性が高い。だから、まずはそこへ向かうのが一番かな……って思う」
「確かに。強い連中と冒険者はニアリーイコールだし、さっきの意見をきく限りだと、おそらく王城に居ることは間違いないだろうな」
 アルスとカスケルの意見がちょうど同じ――王城に行くという――ことが解り、二人は頷く。
「どうやら僕たちは同じ意見を持っていたようだね? カスケル」
「ああ、そういうことになるな。まあ、ずっと俺は王城に行くべきだと考えていたがな。王は冒険者に会うことを大層喜んでいるという。なぜだか知っているか? 冒険者の旅の記録を聞くのが楽しみなんだと。なぜならずっと外に出れずあの城で自分の国の政を延々とやっているからなんだろうな。それは致し方ないことかもしれないが、自分の国を愛しているという王様が外に出れず自分の国を見る時間もないなんて、ちょいと皮肉が効きすぎている話といえばそうなるな」
「ちょっとちょっと。あなたたち二人で盛り上がらないでよ。旅のパーティはあなたたち二人じゃないのよ?」
 アルスとカスケルの会話に割入ったのはマリーだった。
 マリーはきょとんとしたアルスとカスケルを見つめたまま、話を続ける。
「あなたたちの意見に否定するつもりないから、それについては安心していいわよ。別に私も王城に行こうと思っていたしね。私たちが居たあの大聖堂は王政との繋がりはほぼいっさい無かったから、王と話をしようとするときは『ただの冒険者』として扱われる。ただし、これを持っているとすれば……?」
 そう言ってマリーはポケットからあるものを取り出した。
 それはペンダントだった。金色に輝くブレスレットと、それに装着されている林檎をモチーフとしたアクセサリー。
 それは紛れもなく、彼らのいた大聖堂にて宝として扱われていたものであった。
「それは……」
 最初に気づいたのはアルス、次いでカスケルがアルスに合わせるように驚いたような表情を見せる。
 マリーは二人の表情を見て、笑みを浮かべる。

第六章 2

 アルスたちは町を歩いていく。相変わらずメインストリートは人々でごった返していて、なかなか前に進むことが出来ない。進むにもゆっくりしか進むことが出来ず、少しずつではあるが彼らのイライラも蓄積されつつあった。
「それにしてもこんなに人が多いとなると逆に気になるな……。お祭りでもやっているんじゃないのか?」
「お祭り……。まあ、確かに。私の記憶ではこれほどまでに店はストリートに展開されていなかったはずですし。それは有り得るかもしれないですねえ」
「なんだ、あんたたち冒険者か?」
 エイミーとマリーの会話を聞いたのか、彼らのすぐそばにいた男がアルスたちに訊ねてきた。
 もちろん、冒険者の身分であることをここで詐称する意味はないので、彼はすぐに頷く。
「そりゃあ、知らないわけだな。今日は王の誕生日なわけだよ。それでもって、ベスティリア王国の生誕祭というわけだ。この国が代々生まれている日に、王もまた生まれている。二度の誕生日を一気にお祝い……とはいかないが、それに近いものがある。だから盛大に祝っているというわけだよ。ちなみにこの食べ物もすべて無料ってやつだ。すごいだろう?」
「無料!? ……あ、いえ、それはすごいですね……」
 思わずアルスは驚いてしまったが、すぐに冷静を取り戻す。
 男は腕を組んで、
「しかしこの状況で生誕祭を実行するとは、王も何を考えているのか案外解らねえな。なあ、知っているか? 最近、ムロクスと戦争をおっぱじめるって噂があるというのを」
「ムロクスと戦争を?」
 不穏な空気になってきたのを感じつつもアルスは質問した。
「ムロクスとうちの関係が前々からあまりよろしくないのは、さすがに冒険者も知っているよな? 実はあれからさらにひどくなっていったらしい。噂によるとこの城から北にある研究所で何か恐ろしいものを開発しているとかいう噂があるくらいだ。まあ、現にあの研究所は一般人は立ち入り禁止だしさらに強い魔獣が研究所の周りをうようよしているとも聞いたことがあるしな。あの魔獣は研究所を守らせるための護衛じゃないか、って説もあるくらいだ」
「そうですか……。ムロクスと……戦争ねえ」
 マリーは何度か頷きながら、男の言葉を反芻した。
「そういえばそれで城も兵力を集めているらしいな。臨時の軍を作る計画らしいぞ。魔術師に戦士、僧侶に賢者……いろんな人間を集めているらしい。でも、そんな出来合いの軍で何ができるんだろうなあ、とは思うけれどな。実際、チームワークも無ければ会ったことも見たこともない見ず知らずの人間と協力して戦うんだろ? いつどこで自分がやられるか解らないというのに、知らない人間に背中を預けられるんだろうか……。俺は出来ねえよ、少なくとも」
 そこまで話をしたところで男は誰かに呼ばれたらしく、頭を下げて、
「おっと、連れに呼ばれてしまった。それじゃ、良い旅を!」
 この一言だけ言って、去っていった。
 アルスたちはそれにこたえるように、頭を下げた。

第六章 1



 先ず、この世界の地理について簡単に説明しなくてはならない。
 この世界は『大断裂』以後二つの王国に統治されることになった。
 一つは西の大陸を主に統治しているベスティリア王国。ベスティリア王国は自然豊かな王国であり、漁業が盛んである。それにより、全国に様々な自然の産物が往来しており、それぞれの町に特産品がある。中でも特産品は種類が豊富にあるためか、ベスティリア王国の区画内を旅して特産品めぐりをする人も少なくない。
 対して東の大陸を統治しているムロクス王国は商人重点主義という制度を採択しているためか、特産品が非常に少ない。それに王政の殆どに商人が介入していると言われており、今やムロクス王国は商人の傀儡政権と化している――という噂が立つほどである。
 そして前者の王国、ベスティリア王国の首都、ベスティリア城へとやってきたアルスたちが最初に目の当たりにしたのは、新鮮な魚介類だった。そしてそれに群がる人々。人種や年齢を無視して闊歩する人間たちだった。なかば独裁政権化しているムロクスとは異なり、ベスティリアは様々な人種を受け入れている。そのためか、特にその象徴となっている首都では様々な人種の人間が住んでいる。ベスティリア城が『人種のるつぼ』と呼ばれているのも、それが要因だ。
「これはすごいな……。首都には何回かしか行ったことが無かったけれど、こんなにすごかったかな……」
「行ったことがある、といっても全体的に町を見たことはなかったんじゃなかった?」
 マリーの言葉にアルスは首を傾げる。
「……うーん、そうだったかな? そう言われてみると、そうだったかもしれないな……」
「ほら、やっぱり。やっぱりそうだったじゃない。私の言う通り。アルスはあんまり記憶力が無いから、それくらいのことも忘れちゃうのよ」
「それはひどい話だ。……まあ、ここで喧嘩をする必要もないから流すことにするけれど、これからどうするか?」
「うーん……とりあえず城下町で情報収集が一番じゃないかしら? そして出来ることなら王にも話を聞いておきたいところね。もっとも、王がそう簡単に見知らぬ冒険者の話を聞いてくれるとは思えないけれど」
「それについては問題ない。ベスティリアの王は常に城の門戸は広く開けておくべき、と昔から提言していてな。有言実行、とでもいえばいいだろうか。実際に毎日昼夜を問わずに扉が開かれている。もちろん警備の兵士が居ないことはないが、簡単に王と話すことは可能だ。もちろん、手続きを踏む必要はあるがな」
「ふうん……成る程ね……」

第五章 12

 アルスたちが村に戻ってきた頃には、すっかり日が暮れていた。
 洞窟の入口には村長がベンチに腰掛けていた。ずっとアルスたちの帰りを待っていたのかもしれない。
 村長はアルスたちに気付くと、ゆっくりと立ち上がった。
「おお、ローラ……。どうやら『予言』については無事手に入ったようだね。それは良かった。身体に傷は無いかい?」
「ううん、大丈夫。……旅人さんたちが守って下さったわ」
 そう言ってローラはアルスたちの方を手で差した。それを見た彼らは少しだけ恥ずかしくなった。
 村長はアルスたちのほうへ一歩近付く。
「ほう、ほう。ありがとうございます、助かりました。あなたたちが居なければ薬草を届けることも出来なければ、予言が村に到着することもありませんでした。あなたたちのおかげですよ、ほんとうに感謝しています」
「いやいや、そんな。僕たちはただ洞窟を探検しただけです。あのレベル以上の強敵が外ではごまんと居ますから」
「……逆に、こんなに簡単な任務は無い……ということですかな。いや失敬、つい正直に物事を言ってしまうタイプなのでね。それについてはご理解いただきたい」
「いえ。別に気にしていませんよ。……それにしても、もう夜ですね。私たちもそろそろ宿屋に戻ろうかと思うのですが」
「おお、そうですか」
 マリーの言葉に少々大袈裟な反応を示す村長。
 村長の話は続く。
「ならば、もう一度今日は村の宿にお泊りください。突然私たちの頼みを聞いてくださり、ありがとうございました。お礼と言っては何ですが、一泊の宿代をこちらで負担いたします」
「そんな……。私たちは何もしていませんよ。むしろ私たちも賢者の末裔の方から予言をいただいたので、それで御相子としたいくらいです」
「そんなことはおっしゃらずに……。ぜひ、いただいてください。これは私たちの気持ちです」
 こうしてこのまま平行線で会話が一向に進む気配が無かったので、それから十分後、アルスたちがようやく折れる形で会話は終了した。
 そして次の日、村長たちに別れを告げて、彼らは村を後にした。
「それにしても、賢者の末裔とやらが言っていた予言だけれど、どれも不穏なものだらけだったね……。ま、きっと身体を気を付けろ、ということを遠回しに言いたかったのだろうけれど」
「果たしてそれだけのことだったのかしら? 実際問題、彼女の予言は必ず当たるのでしょう? だったらそのことについては警戒したほうがいいと思うのだけれど……」
「ま、それについては追々考えることにしようぜ。先ずは次の目的地だ」
 カスケルの言葉を聞いて、アルスは大きく頷いた。
 次の目的地であり、世界を二分する王国の首都、ベスティリア城へと彼らは歩き始めるのだった。


第五章 終

第六章に続く。

第五章 11



 それから少しして、賢者の末裔による『予言』が開始された。
 予言、という大層な名前がついているから仰々しいものを想像してしまいがちだが、方法は至ってシンプルだった。
 ただ、彼女が目を瞑り――そこで『視た』ものを伝えるだけ。
「…………」
 静寂が、場を支配する環境。誰一人として声を出すことを許されない環境。
 その場において誰も言葉を発することもしなかった。
 ただ、彼女の予言が待つことを信じて。
「――王城」
 彼女が言葉を発したのは、それから数分後のことだった。
「王城の中にあなたたちが居る。あなたたちは何かを探している、と誰かに伝えている。しかし、その誰かが次の日に殺されてしまう……。あなたたちは犯人に仕立て上げられてしまい、そのまま捕えられる。罪を晴らすことが出来るが、大いなる犠牲を払うことになる――」
「大いなる……犠牲?」
「まだ見える……。あなたたちは北にある遺跡で大男と対面している……。大男はあなたたちと何らかの関係を持っているようね……。だけれど、あなたたちはそこで大男と戦うことは出来ない。なぜならあなたたちは大いなる力によって封印されてしまっているから――」
「封印? 大男? 遺跡? ちょっと待てよ、情報がたくさん出てきて解らないぞ!」
 出来ることなら今すぐ情報整理に取り掛かりたいところだったが――なおも彼女の予言は続く。
「それを乗り越えなくてはならない。そしてあなたたちは最終的に大きな敵を倒すこととなる。多くの仲間を引き連れて、闇の神殿へと向かうのです」
「闇の神殿……おいおい、そんな仰々しいものと戦うことは考えていないぞ。ただ俺たちはマリーにかけられた呪いを解くために旅をしているだけであって――」
「でも、あなたたちはそうせざるを得なくなると思う。確かに、これはあくまでも予言であり、これを逃れる術はある。だから、簡単に出来るはず。ですから、あくまでもあなたたちには選択肢をゆだねるだけ。それしか私には言えない。それから何を選択し、どのように行動するかは、あなたたちの考えがすべてです」
「俺たちの選択が……すべて」
 カスケルの言葉に、少女は頷いた。
「さて、私からの言葉は以上です。あと、最後に一つ。たぶん私とあなたたちはまたいつか、そう遠くないうちに出会えると思います。その時は、また元気な姿を見せてくださいね」
「ああ、ありがとう」
 アルスは少女の言葉を聞いて大きく頷く。
 そしてローラを引き連れて、彼らは家の外へ出た。

第五章 10

 廃墟にも似たその家の中心にはテーブルが置かれていた。テーブルの所定の位置には椅子が置かれており、ちょうど人数分の椅子が設置されている。
 まるでアルスたちが今日この時間にやってくることが解っていたかのように――。
 お茶の入った湯呑が全員にいきわたると、彼女はようやく腰掛けた。
「それでは、まず……ええと、村人はあなたでよかったかしら?」
 こくり、とただ一度頷くローラ。
 そしてそれと同時に、ローラは麻袋を少女に手渡した。
「薬草ね?」
「ええ、そうです。いつも通り、日数分ご用意しました。これで問題ないですか?」
「ええ。何の問題もないわ。ありがとう。それじゃ……ええと、これだね」
 彼女はポケットの中から小さなメモを取り出した。四つに畳まれたそれを開くことなくローラに手渡す少女。
 ローラはそれを見て、少しだけ顔を綻ばせた。
「これが……予言なのですね、賢者さま」
「うん。まあ、でもいつも通りだよ。たいしたことは書いていない。ただ、村長に頼まれたことだけは未来予知してみた。それを重点的にね」
「長老から言われたこと……? はて、どのようなことでしょうか?」
「雨がいつ降るか、だよ」
「あ……」
「私も困っていてね? 雨が降らないと作物が育たない。それにそっちだって雨が降らないと様々な問題が発生するだろう? だから私も困っていた。村長に頼まれたときは私の生活もかかっていたからすぐに未来を『視た』よ」
「それで……結果というのは?」
 ローラは唾を飲み、言った。
 対して少女は大きく欠伸を一つしたのち、
「それを開けてみれば書いてある。どうしても気になるというのならそれを読んでみるといい。ただ、確かその予言を私の次に見ていいのは村長だったはずだが?」
 そして少女は湯呑のお茶を一口啜った。
 ローラはそれを聞いて少し落ち込みながら、
「そう……ですよね。やっぱり、村長より先に読むことなんて、許されませんよね。解りました、急いで私はこの予言を村へ持ち帰ることにします」
「そうしてくれ。それがいい」
 ローラはお茶を早々に飲み干すと、立ち上がり、彼女に対し頭を下げる。
「ああ、そうだった。旅人たちよ、少し待ちなさい」
 しかしながら、それで終わりでは無かった。
 アルスたちもローラが立ち上がったのを見て、立ち上がろうとしたが、そのタイミングで少女に呼び止められたのだった。
 少女の話は続く。
「少し……待ちなさい。この村の面倒な風習に付き合ってくれた礼だ。旅人たちのことも未来を視てみようじゃないか」
「……そんな簡単に。いいのか? お金とかリターンとか……」
「馬鹿なことを言う。お金などそもそも持っていても必要ない生活をしているし、今は自分のことだけで満足している。それに、私はただ気になっていることを言うだけのお節介な人間だからね」
 そう言うと、少女は小さく笑みを零した。

第五章 9

 少女はアルスたちが近づくのに気付いて、振り向いた。
 そこに立っていたのはいかにも質素な風貌をした少女だった。服はボロボロ、髪質もどちらかといえば傷んでいる。普通に見ていれば賢者の末裔なんて結論に至るはずがない。浮浪者の娘、としか考えることが出来ないだろう。
 少女はその青い瞳でアルスを見つめ、そして首を傾げた。
「……どうして、村人以外の人間がここへやってきたのですか?」
「彼らは、私の護衛のために来てくれたのですよ、賢者さま」
「……護衛。成る程、その話からすると……魔獣が強くなったのですね?」
 こくり、と頷くローラ。
「ええ、そうです。魔獣は強くなって、今や私たちがここまで洞窟を伝って行くことが難しくなってしまいました。はっきり言って、これは由々しき事態です。ここまで来ることが出来れば、賢者さまの使っている防護障壁で何とかなるのですが……」
「確かに」少女は上を指さし言った。「この防護障壁は柔な魔獣では攻撃することはできません。傷一つつけられませんからね。そんな防護障壁に挑もうという魔獣はきっと居ませんでしょうが……。あくまでこれは私の身の安全を考慮したうえで設置したものですから」
「防護障壁……?」
 アルスは少女の話を聞いて上を見上げる。
 ようく見ると確かに空が若干虹色に輝いているように見える。どうやらそれが防護障壁のようだった。
「ええ、私はこう見えても無力なので。魔術こそ使えますが武術はてんでダメなものですから。それに、どちらかといえば私はこの人里離れた場所で一人平和に過ごしたいのですよ。一人平和に暮らすことによって、さまざまなメリットとデメリットがあります。それは確かにその通りでしょう。しかし、私はそれを選択した。なぜでしょうか?」
「……一緒に居ると、何か問題でもあるというのか?」
 ぴんぽーん、と少女は言うと服の中に入っていた首飾りを取り出して見せた。
 それは金色に輝く小さな鍵だった。
 少女はそれを見せながら話を続ける。
「これは天空に潜む大きな城へ向かうために必要な大切なものです。この鍵以外にもいくつか大切なものは有ります。なにせ私以外に賢者の血を引き継いでいる者は七人居ますからね」
「七人……!」
「さてと、こんなところで立ち話もなんですから、中に入って話しましょうか? お茶くらいなら出せますよ」
 少女は立ち上がると、そのまま家のほうへと向かっていった。
 アルスたちはそれを見ながらも、彼女の後を追いかけていくのだった。

第五章 8

「とはいえ、賢者の末裔が仮にこの家を建て直したくないと言われたとしても、いつかはそれをしないといけないときがやってきます。やってくるはずです。やってこないといけないのです。……まあ、それがいつになるかは解りません。もしかしたら明日かもしれないし、一年後かもしれない。十年後かもしれないし百年後かもしれません。どちらにせよ、私たちは賢者の末裔には感謝をしているのですよ」
「感謝、ね」
 アルスはローラの発言を聞き流しつつ、扉をノックした。
「こんにちは、薬草を届けに来ました」
 しかしアルスの言葉には誰も返事を返さなかった。
「誰もいないのか?」
 首を傾げ、ノブを捻る。扉はそのまま開け放たれた。
 中には誰もいる様子が無く、しかし少し前までいたような形跡があった。例えば台所の火を消した痕があったりまだ濡れている乾燥中の茶碗があったりなどだ。
 しかしながら、改めて部屋を眺めると賢者の末裔の生活、その質素ぶりが容易に理解できる。
 先ず、ここまで質素な暮らしをしているとは到底予想できなかった。確かに人里離れた山奥で暮らしているというのだから少しは寂れたものを想像していただろうが、ここまで寂れているとは思えなかった。
「こんなところに……人が住んでいるのかよ?」
 カスケルの問いに、ローラは首を傾げる。
「おかしいですね、ここに居ないとなると……。もしかしたら裏の畑かもしれません」
「畑?」
「薬草こそ栽培できませんが、それ以外の野菜は裏の畑で栽培しているそうなのです。ですから自給自足といったところでしょうか。おかげで、私たちは食料までもっていく必要はないのですが。しいて言えば調味料くらいでしょうかね。塩等については、いくらなんでも自分で作ることはできませんので。岩塩という手もありますけど」
「裏の畑、か……。よし、とりあえずそっちへ向かってみよう。何か解るかもしれないし、そこにいるかもしれない。いずれにせよ探しに行く必要はありそうだ」
 そしてアルスたちは踵を返すと、畑のほうへと向かった。
 畑は家の裏側にこじんまりとあった。かなり小さくできているが、それでも人ひとりが暮らしていくには十分な野菜が収穫できるのだと思われる広さだった。
「ここにいるのか……?」
 アルスはぽつりと呟いた直後だった。
 畑の真ん中に、地べたに座って何か作業をしている少女が居た。大きさはローラより少し小さいくらいだろうか。まだ一人暮らしをするには幼すぎるし、どちらかといえば家族の手伝いで農作業をしているようにも見える。

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